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第9話 ヒロインと俺と薔薇色の未来と

 

 にゃ王様が尻尾をひゅいんと回転させる。


「アーレをここに」


 背後でクール猫が眼鏡をくい、……じゃなく、何やら石版を取り出し、その表面を撫でた。

 何だあれ。どこから出したんだろう。どうなってるんだろう。

 ぼんやり全体が光っていて、ぱっと見何かのコントロールパネルのようだ。

 でも見た目は完全に石版だけど。


 クール猫は作業が終わったのか、ブルーの瞳をじっと俺の背後の一点に向けた。

 じいっと見ている。

 何?

 

 にゃ王様もじいっと見ている。

 え、何? 何ですか?

 

 後ろを振り返っても、崩れて残ったトンネルの壁しかない。

 にゃ王様もクール猫も、その何もない壁をじっと見つめている。

 

「え? なんかありますか?」


 じいっと見つめている。


 じいっと見つめている。


 じいっと見つめている。


「にゃ、にゃ王様、何も、何もないですよ?」


 壁だけですよ?


 つつ、とにゃ王様とクール猫の瞳が何かを追って動く。


 俺の、真後ろ――


「ひいっ」


 俺は正座したまま飛び上がった。


「いいいいたずらはやめま――」


 たった今まで何もなかったところにひゅっと影が現われた。


「ぎゃああ!」

「お呼びですか、魔王様」


 両手で顔を覆った俺の耳に、生身の人間の声がした。


「――」


 恐る恐る目を開ける。

 人――

 にゃ王様の言ってた、お世話係(ライバル)――


 ええ?

 何このムキムキ筋肉ん。

 安らぐ要素どこにあんの?


 俺の膝こんまいっとんの方が百倍いいですよ?


「間違いにゃ」


 ムキムキ筋肉んは恭しく一礼して去り、再びクール猫は石板をなんかした。

 どうやら呼び寄せたりなんだりできるらしい。

 俺がここにいきなりいたのってあのせいか。来た記憶なかったもんな。


 また、何もなかった場所にひゅっと影が現われる。

 次こそ、お世話係(ライバル)――


「お呼びですか――」


 ええ?

 何このムチムチ儚げ系美少女。

 俺が膝に埋れたい。


 じゃなくて振り幅でけぇな。


 美少女は可憐な、ふわりと柔らかく、それでいて澄んで甘い声を発した。


「ご主人様」


 おお

 おおおおお

 おおおおおおおお


 きたー!

 ご主人様きたァー!!


 ありがとう、ありがとう。美少女のご主人様呼びを聞かせてくれてありがとう。

 我が人生に一片の悔いなし!


 いや、待て待て、俺四天王じゃん?

 しかも最強の。

 ってことはこの物語の主役なわけよ。


 ってことはこれからこの美少女との甘酸っぱいお約束ラッキーエロが不必要に差し込まれたラブストーリーなんかが待ってたりするんじゃないの?

 俺はそれを全く興味ない感じで流して却って好感度上げちゃったりするわけよ。


 柔らかいウエーブのかかった背中までの銀色の髪と、ちょっと冷たそうで百合を思わせる清楚なルックスもめっちゃ好み。

 これは転生主人公としてあんなことやこんなことも色々……


 薄紫の大きな瞳が俺に向けられる。

 ほんと美少女だ。

 儚げで、たおやかで。


 アーレちゃんかぁ。

 いい響きだ。

 呼んでもいいかな。


「結婚してください!」


 あっ、間違えた。

 あれ、でもアーレちゃん、すんごくふわふわ微笑んでくれたぞ?

 やっぱ俺、四天王として―― 


「わたし、厨二病は嫌いです」


 ――

 えっ


「全身黒づくめとか、左手の手袋とか包帯とか」


 ――


「滅死の黒影とかほんっと……」


 ――


「……」


 ――


「……寒キモいし……」


 溜めた。すっごい溜めた。

 えっ


「凍傷できそうな痛い厨二と結婚するくらいならメッシのコックと結婚します」


 メッシのコック、かなりレベル高いと思うが。

 えっ。


 ひどくない?

 こんな可愛い可憐儚げ美少女なのに言うこと辛辣とか。綺麗なバラにはトゲがありまくりかよ。

 つーかバラより百合って感じだけど百合にトゲあるのかよ。

 束にして容赦なく叩くタイプかよ。


 ――


 ―― ――


 ―― ―― ――



 好み……



「不気味にゃ!」


 頬に猫キックを食らった。


「気持ち悪いことを考えるんじゃないにゃ!」


「にゃ王様、何故俺の心を……さすがですね」

「全て顔に出てたにゃ。存在がもう犯罪レベルにゃ」

「魔王軍ですからね」


 頬に猫キックを食らった。

 ご褒美なんですが。


「だいたいいきなり結婚を申し込むとは無礼にもほどがあるにゃ!」


 俺はにゃ王様の前にジャンピング平伏(ひれふ)した。


「にゃ王様、協力してください! 俺彼女とけっ……付き合いたいです!」

「いやにゃ」

「俺、今まで彼女いたことないんですよ! 28年間! 一度もぉお!! 俺をホコリでも見るような目で見る()はみんな俺を振るんです!」

「当たり前にゃ! お前の好みが特殊過ぎるにゃ!」

「俺を哀れと思し召して」

「おぞましいにゃ」




 こうして、ヒロインが登場した。

 俺は大いに期待する。

 この先、薔薇色の未来が広がっていることに。


 あ、百合色だとちょっと意味合い違うからね。俺の出番無くなっちゃうからね。



 薔薇色の未来が広がっていることに。






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