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第4話 君のニャは

 

「――まあいいか」


 あんなブラック企業さっさと辞めたかったし、でも辞めたら食って行けないし、金もないし彼女もいねぇしやりたいこともないし得意なこともないしコンマ1トンだしサーブは相手コートに入らないし、めちゃめちゃ苦しむのはヤだったけど楽に死ねたし。


 アホな死に方だけどさ。


「聞いているのかにゃ?」

「すみません、聞いてませんでした」


 何かにゃごにゃご言っていたみたいだ。


「もう一度だけ教えてやるにゃ。お前は新たに生まれ変わったのにゃ。我が最強の四天王の一角にゃ。これから先、世界征服のため、我が意に従いその力存分に発揮してもらうにゃ」


 すごい。

 魔王らしい。

 でも四天王?


「さっき言ってたアル中と一緒?」

「奴は急性にゃ。表現に気をつけるにゃ」


 魔王なのに人権派。


「お前は我が魔王軍四天王最後の、そして最強の一人、『滅死の黒影』にゃ」

「メッシの……コック? アルゼンチンの」

「お前にバロンドール7冠の口に入る料理を作るスキルは無いにゃ」

「無いんですか」


 チートに生まれ変わったのに。


「滅死。滅殺の滅に死と書くにゃ」


 うわお。


 ちょっとぉー。


 厨二ぃー。


 四天王、めっちゃ厨二ぃー。


「わかったかにゃ。わかったら返事をするにゃ」


 まあいいか。もう何でも。死んでるし。


「はい、にゃおう様」

「にゃおうじゃにゃい。魔王にゃ。お前は転生したてで発音がまだ不十分のようにゃので許してやるが」


 へへ、許してもらった、嬉しい。


「早く魔王様と呼べるようになるにゃ」

「はい、にゃ王様」

「にゃ王じゃにゃい。魔王にゃ」


 意外と発音追ってきてる。

 にゃ王様はまた尻尾をひゅいんと半回転させた。ぱたん。

 あの仕草、可愛いなぁ。


「まあ良い。では手始めに、四天王としての初の任務を命じるにゃ」

「はい、にゃ王様」


 あっ、すごい目。

 もうちょっとの間許してくれると思ったのに、さすが気分の変化を猫の目のようにと評するだけはある。


 キャットタワーの上でにゃ王様は首をそらして背後の壁を示した。


 壁には世界地図? らしきものが掛けてある。絵じゃなくて、織物かな。

 良くあるファンタジーっぽい地図というとわかりやすいと思う。


 大陸が一つ、これが世界の全てなのか、分かっている範囲なのか、星みたいな、十字みたいなマークが付いているのがこの場所だろうか。大陸の下の方だ。

 上を北と考えると、南南西かな。縮尺はわからない。


 にゃ王様は尻尾の先で、ある一点、マークの上を指した。


「我らの目標は世界征服――その為にお前を呼んだのにゃ」

「何と――」


 世界征服――


 生音で聞くことになるとは思ってもみなかった言葉だな。

 感動している。


 思うんだけどこれさ、猫が魔王って、世界滅びない?


 こんな可愛い存在に『世界を滅ぼすにゃ』とか命令されたら滅ぼしちゃわない?

 世の中の飼い主たち、みんなこんな気分なのかな。


 俄然やる気が出て来た。


「分かりました。共に世界を滅ぼしましょう!」

「そんなこと言ってないにゃ!」


 にゃ王様の飛び蹴りが俺の頬に炸裂した。

 肉球――いい。ぷよんて感触。


 俺ほんと、猫を飼いたかったな。ツンの中に飼い主だけに見せるデレ、最高じゃないか。


「世界征服にゃ」


 さすがはにゃ王様、俺の顔を蹴った後はくるりと身を捻ってまたもとのキャットタワーの上に戻っている。


 猫らしい身の軽さを目の当たりにして、俺は本当に今目の前に猫がいて、触れ合って、なのに猫アレルギーが出ないことに感動していた。


 植木鉢に礼を言いたい。

 ここが異世界でも、どこでもいいや――


 とは言え、やっぱり気にはなる。ほんとどこだここは。

 俺は周りを見回した。


 場所よりも気になるのは、こんな広いホールに他に人がいないことだ。舞踏会やるようなホールなんだけど。


 もしかして、猫だけの世界だったり?

 それは嬉しいような、でもやっぱり暮らしにくいような。


 そう言えば、にゃ王様俺のこと、四天王最後の1人って言ってなかった?

 最後のってことは、多分他に3人、同じような立場の奴がいるってことだよな。


 猫じゃなければだけど、俺だけ人間ってのもアレだし。


「ところで、他の四天王は、どんな」


 先輩方がどこかにいるのだろうが、このホールには俺とにゃ王様と、もう1匹、灰色のクール猫しか見当たらない。


「今は出撃している。帰還したら紹介するにゃ。お前の他に第一の四天王トラ、第二の四天王ミケ、第三の四天王シマシマがいるにゃ」

「――ちょっと待ってください」

「何だにゃ」

「先輩方のお名前、いま何て」


「第一の四天王トラ、第二の四天王ミケ、第三の四天王シマシマにゃ」

「ちょっと待ってください」

「何だにゃ」

「先輩方のお名前」


「第一の四天王トラ、第二の四天王ミケ、第三の四天王シマシマにゃ」

「ちょっ」

「にゃ」


 俺はにゃ王様とたっぷり10秒、見つめあった。


「――それ、にゃ王様が名前を?」

「命名したにゃ」


 うおお!

 みんな猫の名前じゃねぇか!


 何で?

 何でだよ!

 何で俺だけ滅死の黒影なんだよ!

 何で俺だけ平凡な猫ネームが嫌だから自分で考えた最強ネーム付けましたみたいな厨二病全開ネームになってんだよ!


 ちょっと中坊時代思い出して古傷えぐられたわ! あのノート燃やしたっけ?


「にゃ王様、改名を要求します!」

「だめにゃ」


 断られた。




猫アレルギーのせいで猫を飼えない作者です。

憧れだけで書いてます。

猫の生活を教えてください。

あと感想ください。

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[良い点] 癒やされました [一言] 他のヌッコと仲良くなったところ見せつけて魔王さまにツンデレかまってアピールがされたい 袖とか引っ張られたい
[良い点] 主人公の語りが軽快でノリが良く、楽しくて読みやすい。語られている人生は結構辛い所もあるのに、心は猫に全振り、かつ現在は異世界なうで、主人公に暗さがないところもカラッと楽しめる一因か。そして…
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