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第19話 勇者、登場!~チートでハーレム、そしてゴーレム~

 

「第一フロア、第一フロア――!」


 急げ急げ。

 ちょっぱやで廊下へ駆け出し階段へ向かう。


 魔王の塔(キャットタワー)は10階建てだ。結構広くて、かつ侵入者対策に、階段が各階のそれぞれ対角にある。


 俺の部屋がある8階から7階へと階段を駆け降り、7階フロアを駆け抜ける。

 うわあ、猫兵士達がそこら中で好き好きに寛いでいる。お勤めご苦労様様です! 帰ってきたらそこに俺も寝転がらせてくださいね!


 はっはっ、はっはっ

 6階


 ふぅふぅ、ふぅふぅ

 5階


 ぜぇぜぇ、ぜぇぜぇ

 4階


 ひぃひぃ、ひぃひぃ

 3階


 ……うぐっ……ぐ

 2階


 ……ッッ(自主規制)



 トイレに間に合って良かった。



 口をすっきりゆすいでから俺は最後の二階フロア、中央にある一階への螺旋階段を一歩一歩降りた。

 膝がガクガクしている。


 ここ、フロアがやたらと広いし各階天井が高い造りだから、階段は一階あたり70段くらいあるんだよ。普通の階段の、倍以上?

 にゃ王様にエレベーター設置をお願いしよう。


 いや、四天王ならフッて瞬間移動する能力あっていいんじゃないかな。フッて。

 よくあるじゃん。


『行け。一人残らず殲滅せよ』

『はっ』


 目を向けたらもう消えている、みたいな能力。

 にゃ王様にお願いしたらくれるかな。そういう厨二っぽいの好きそうだもんな、にゃ王様。

 そういえば、にゃ王様の参謀クール猫がへんな石板で俺を好き放題跳ばしてたし、できるよね。


 とりあえずまぁ、ダイエットしようと俺は誓った。

 明日から。


「1っ……か……ぃ……」


 一番下の段に右足をつけた瞬間、正面に光が走った。


 1階はフロアの真ん中に階段があって、階段の周りには部屋が8部屋ある。その外側に更に部屋が三重にあり、不規則に配置されて迷宮となり侵入者を惑わす造りなのだ。


 各部屋や通路にはにゃ王様が創ったクリーチャーが配置され、侵入者を見かけたら容赦なく攻撃する。ゴブリンとかガーゴイルとかグール、スケルトン、それからゴーレムとかね。

 奥に来るに従ってクリーチャー達のレベルも上がるよ。扉を開けると発動するようなトラップとかもあるし。


 その部屋の一つ、左奥の入り口から白い光が漏れている。何やら声も聞こえた。


 フロアを抜けてきたのか。

 どうやら侵入者はそれなりの腕のようだ。


 俺はまだぜぇひぃ言いながらも、なんとか入り口へ、這ってにじり寄った。


「勇者! 勇者ぁぁ! やだやだ死なないでー!」


 女の子の声だ。泣きじゃくっている。


 え、勇者死んじゃったの?

 間に合わなかったの、俺。吐くまで走ったのに。


「大丈夫。今回復魔法をかけた。すぐ起きる。落ち着いて」


 女の子の声だ。ちょっと幼い、けどしっかりした感じの。

 僧侶かな?


 とにかく良かった。勇者は生きているようだ。吐いた甲斐があった。


「だって、だってぇ、勇者あたしを庇ってぇ……っ」

「別に君を庇ったわけじゃないだろ。彼が先頭歩いてたんだから」


 女の子の声だ。

 きりっとして男まさりぽい感じ。

 戦士系かも。


 勇者1人、僧侶1人、戦士、泣いてる子は何だろう。


「ただのトラップでしょ、大げさ。騒ぎすぎ。そもそもドジなだけなのよ勇者が。トラップ踏むなんて勇者の自覚が足りないのよ。ていうかちょっと、離れなさいよね、何ちゃっかり抱きついてんのよっ」


 女の子の声だ。

 この子はツンデレだな。


 ていうか女の子何人いるんだよ。

 泣いてた子、幼い系、男まさり系。ツンデレ系。


「俺だってたまにはミスするよ」


 男の声が混じった。

 スカ……いや、張りのある魅力的な声だ。


「勇者ぁ!」

「勇者。良かった」

「安心したぞ」

「ふん、無事だったの。ドジなんだから。馬鹿じゃない」

「ちょっ……重い重い。みんな大袈裟だなぁ、大丈夫だよ、俺は。それにたまのミスくらい、人間らしくていいだろ? 自分が人間だってこと思い出させてくれる気がする」


 えらくスカし……落ち着いた響き。


「何を仰っているのですか。冗談じゃありません、無茶ばかりして……幾ら他の方とは違うと言っても、貴方は生身の人間なんですのよ」


 女の子の声だ。貴族のお嬢様って感じの。

 あれ? さっきの子らとまた違うな。

 ほんと何人いるんだ?


「そう言ってみんな、ちゃっかりくっついてるんだから。私だって勇者とくっつきた――う、嘘よ! 今のなし! 忘れなさいよね!」


 さっきのツンデレ女の子の声だ。


「嫉妬でしょ」


 ええと、最初の……?


「なっ」

「勇者、あたしに優しいから」


 ちょっと追うのキツくなってきた。


「ふぅ、何でみんなそんなにくっつきたがるのかなぁ。緊迫したシーンなのにわちゃわちゃだ」


 ほんとだよ。

 お前はこのカオスをどうにかしろよ。


「ほら、危ないから下がって下がって。ゴーレムがまだいるよ」


 いるんかい。

 ゴーレムいるんかい。見物中かい。


 あ、ゴーレムってここの番人ね。各部屋にそれぞれ2〜3体配備されてるらしい。

 ゲームで言えばそうだな、レベルMAX が99としたらここのは20くらいの中級パーティー向けだ。


 大陸冒険者ギルドでは依頼をこなした点数制で初級がレベル9まで。

 レベル10から中級って認定されるらしい。

 35から49が上級。

 50からはS級だ。

 その上は70、80、90と刻むのだと第一の四天王トラに聞いた。


 ここでは各レベルを3単位で分けて呼んでて、初等一位(レベル9)とか、一等一位(レベル49)とか、特等=S級とか言うらしい。


 あっ、我等がにゃ王様は別にギルド認定された訳じゃないけど当然レベルカンストだよ。神位なんだって。

 神。さすが俺のにゃ王様。


 とにかく、ここのゴーレムはレベル30くらい。レベル20の慣れた冒険者5人パーティーなら、無難に倒せて点数も稼ぎやすいって感じのやつだ。

 ただ、それが合計100体、たまにレベル40くらいのが紛れて彷徨っ(ワンダリングし)てるのがこの第一フロア。ゲームで言えばクソゲーだね。


 だからこのフロアを抜けられる冒険者パーティーは、今までもほとんどいなかったって教えられた。

 この第一フロアにはこれまで50組のパーティーが侵入してるけど、2階フロアへ上がったのはたった5組。


 部屋数は少ない分レベル50くらいの番人を配置しているから3階に行けたパーティーはいまだに無い。


 え、戦うのは魔王の塔の猫兵士じゃないのかって?

 本気で言ってるのか?


 あんな愛らしい存在が戦うなんて、そんな訳ないじゃないか。彼等に剣を向けようなんて輩は、俺たちは四天王の誰一人として許さないし。

 特にね、にゃ王様と俺の茶トラっ子には指一本触れさせませんよ。


 まあともかく、このフロア最奥まで辿り着くなんて、さすが勇者パーティーだな。ハーレム状態くさいけど。


 チーレムってやつか?

 うらやま……じゃない。


「さて」


 ようやく息が整った。

 大丈夫。ダイエットは必要ない。


 ゴーレムが床に倒れる、ずしんとした重い音が響く。

 ロックゴーレムだったみたいだ。


「これで、終わりだ」


 勇者がそう言った。




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