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第18話 勇者、登場!~侵入者を撃退せよ~

 

 えへへ。

 猫の世界、ばんざい。


 話の更新的には3年ぶりだが、俺のハッピー魔王のキャットタワーライフは転生してから2週間ほどが経過した。

 ここの生活は最高だ。


 朝に猫に起こされ、昼に猫と戯れ、夜に猫と眠る。

 人間は俺たち四天王と、この国の魔王、にゃ王様のお世話係である立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花S系美少女アーレちゃん、従者のムキムキ筋肉んとあと数名のほかには今のところ見ていない。


 ほとんど猫しかいない世界。

 長年歯痒い思いをした猫アレルギーなんて一切出ない。

 にゃ王様に謁見し、お使いをこなし、時折ごほうび(ex猫パンチ猫キック尻尾連打)をいただき、かわいい猫兵士達と交流する。


 天国だ。転生して本当によかった。


 今も俺の部屋では、にゃ王様から預かった茶トラの仔猫が眠っている。この子、俺の従者なんだって。

 先日の任務、フック谷でカンガルー王国の戦士粉砕王ガルバルの猛攻からこの子を守り切ったから、晴れて俺に従者として預けられたんだ。

 へへへ、俺の従者。


 名前決めていいですか、って聞いたら、名前はにゃ王様が決めると断られた。

 ……厨二的な名前じゃないよな……?


 あ、でも俺以外厨二ネームいないんだった。

 他の四天王トラとミケとシマシマだし。にゃ王様が付けたんだって……

 同じにゃ王様が付けたのに、何で俺は……俺……


 ちょっと落ち込んだ。

 いや。忘れよう。


 この子だ。

 今、この子は生後1ヶ月らしい。


 前脚がちっちゃいんだよ。後ろ脚も。

 毛がふわふわというか、ぽわぽわというか、まだしっかり生え揃ってなくてまゆ玉みたいな感じ。

 緑色の目はやっと開いたばかりで、鳴き声もめっちゃ小さい。儚い。

 ちっさい手の肉球をちょいちょいとつっつくと手がきゅって引っ込むんだ。


 あっためたミルクを4〜5時間置きにあげて、排泄をトントンお手伝いして拭いてあげて、ふわふわの布を敷き詰めた箱に寝かせる。ぬるくした温石を忍ばせるのだって忘れていない。

 この子が満ち足りた様子で寝ているのを見ると、言葉にならないくらい可愛いくて愛おしい。


 なんだろうこの存在は。

 天使? 天使かな? 俺の天使。


「ここ天国だしな……」


 絶対に絶対に、俺が守ってあげるからなぁ。

 俺は固く心に誓った。


 その時だ。

 突然、フロアに激しい警報音が鳴り響いた。


「うっわ!」


 デロデロに溶けていた俺は文字通り飛び上がった。

 茶トラっこを身体の下に庇う。ぼよんとした俺の腹が当たらないように気をつけなくてはね。


 警報はまだ鳴り響いている。

 何だ? 何なに?! えっ、火事?! 緊急地震速報?!

 やめてよ、茶トラっ子が起きちゃう! びっくりしすぎてストレスになっちゃったらどうするんですか!


 チラリと見た茶トラっ子はまるで気付いた様子もなくすやすやと寝ている。

 ふふ、将来大物になるよ絶対。

 俺の天使。


 警報音はメッセージに変わった。


『侵入者発見、侵入者発見』


 侵入者ぁ?

 何だよ、侵入者って。

 せっかくの幸せなひと時を邪魔するとか無粋なことやめていただきたい。


『第一フロアダンジョンに侵入者あり。繰り返す。侵入者発見、侵入者発見。第一フロアダンジョンに侵入者あり』


「1階か」


 じゃあ問題ない。1階を抜けて2階まで辿り着く侵入者はここ数年いないらしいし。

 今日当番誰だっけ。四天王の第一(トラ)? 第二(ミケ)? まあ早く行ってあげて。

 ダンジョン厳しいから着く前に侵入者の人生の幕が閉じちゃうかもしれないけども。


 俺はまた茶トラっ子の箱の前に寝転がった。


「早くいっぱい遊べるようになろうなぁ」


 楽しみだぁ〜えへへ。


『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ。繰り返す――』


「ちょ」


 名指しかよ!

 ていうか名前やめて。せっかく甘い夢に浸って全て無かったことにしてたのに蒸し返すのやめて。


『侵入者発見、侵入者発見。第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに出撃せよ』


 俺は目を閉じた。


「――呼ばれて行ったら、終わりな気がする」


 にゃ王様に怒られたら、え、呼ばれてたんですか、気づきませんでした、でもにゃ王様、俺の名前はクロですよ、って言い張ればいいんじゃない?


「そうだ、聞こえなかったことにしよう」


 うん、そうしよう。

 そ……


『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』


 ちょっ


『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』


 あの止め


『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』

『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行、撃退せよ』


 壊れたスピーカーですかちょっと。

 どこで見てんの?


『第四の四天王、滅死の黒影は直ちに第一フロアダンジョンに急行』ブッ


 切れた。


 3秒ほどの沈黙の後、低〜い声が流れた。


『第四――滅死の黒影。聞いてるにゃ?』


 にゃ王様がキレていた。


『あと5秒で出撃しなければ従者は返してもらうにゃ。よん。さん。に』


 早い早い早い!

 5無い!


「行きます行きます行きまーす!! 滅死、どこへなりとも滅私奉公に参ります!」


 天井あたりに向かってに叫ぶ。


『初めからそうするにゃ』


 あらやだ聞こえてるんですかーー!?!


 茶トラちゃん、すぐ戻るからね!





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