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劇薬の夏空  作者: 最上優矢
第一章 一度きりの夏空
9/46

1-8

 気づけば、時刻は、午後六時を少し過ぎていた。

 我が家にある食材が少ないのか、瑠璃さんは、冷蔵庫とにらめっこしたのち、夕食を作り始めた。

 ぼくと仁はというと、二階の自室にこもり、思い思いの時間を過ごしていた。

 具体的には、ぼくはベッドで小説を読み、仁は十二畳もある、ぼくの部屋を物色していた。

 けれど、とうとうぼくは、仁の物色にこらえきれなくなり、「そこには何もないぜ」と、タンスの中を荒らす仁に、声をかけた。

 仁は作業を中断し、こちらに振り返った。

「人の部屋を荒らして、楽しいか?」

「お嬢に危害を加える物がないか、確認しているだけだ。場合によっては、没収しなければならないからな」

「たとえば、それは何さ」

 こちらを見たまま、仁はタンスを閉めた。

「ナイフやスタンガン。そういった、武器になり得るものだ。あるのだろう?」

「ないね。第一、ぼくは、瑠璃さんを目の前で自殺させたいんだ。傷つけたいわけじゃない」

 それを聞いた仁は、神妙な面持ちで、黙りこんだかと思えば、深くため息をついた。

「おいおい、何か言いたそうな顔をしているな、監督。頼むから、それが何か言ってくれよ」

 ぼくの言葉を聞き、ようやく仁は口を開いた。

「坊主の性癖には、あまり触れぬようしていたが、どうしても気になることがある。さては貴様、お嬢の苦痛に満ちた顔を、見たいのではないのか?」

「それに肯定したら、監督は、どうするつもりだよ。ぼくのことを軽蔑するのか?」

「おっと、図星か?」

「残念、外れだよ。何度も言うように、ぼくは、瑠璃さんを目の前で自殺させたいんだ。だから、外れだ。それも、大外れだ」

 ぼくは意地悪たっぷりに、仁を、せせら笑った。

 すると、仁は見るからに機嫌をよくし、さらには「面白い奴め」と言う始末。

 ぼくは、仁がマゾに目覚めたのかと思い、正直ゾッとした。

「なあ、監督は、何がそんなに面白いんだよ。というか、ぼくのどこが、そんなに面白いんだ?」

「どこも何も、すべてが面白い」

「それは、どういう意味だ?」

 それっきり、仁は、ぼくの質問に答えてくれなくなった。

 仁は、大きめのクッションにもたれかかると、自前のノートパソコンを膝に乗せ、何やら、キーボードを勢いよく打ち始めた。

 ようやく、平穏が訪れたようだ。

 ぼくは中断していた小説を、再び読み始める。

 それから、しばらくすると、部屋の扉がノックされた。

 瑠璃さんである。

「夕食できたよ」

 待ってました。

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