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花筏9

 そして、母さんは僕をもう一度殺そうとした。


 方法は、僕と同じだった。

 笑っちゃう。

 母さんは寝ている僕のところへ忍び込んでくるとフライパンを僕に打ちつけた。

 痛かった〜。驚いたし。

 てか、なんでフライパンよ?真似すんなよなー。フライパンは僕のオリジナル。滑稽で面白いだろ?あのオヤジにはちょーどだよ。ってんで選んだだけだっつーの。

 でも、母さんは僕と違って僕へ下ろすフライパンに躊躇があった。

 だから、僕はそれほどのダメージを受けなかった。

 でも、僕は恐かった。

 寝起きにフライパン。取り合わせとしては僕の狙い通り爆笑だけど、現実としては脅威だ。

 僕は庭に逃げ出した。

 満月。

 庭。一本だけの。貧弱な桜。

 終を告げ、散り行く花びら。

 昼の雨。名残の水溜り。

 花びら。散る。水溜り。

 逃げる。四つん這い。転げだす。覗き込む。

 水溜り。

 小さな。花筏。小さな。小さな。小さな。花筏。

 ゆれる枝。ざわざわ。

 風。揺れる。

 水面。

 ざわめく枝。


 ーーまこと。

 しっかりと聞こえる声。

 僕の耳に。誰?誰?誰が呼ぶの僕のことを?

 ーーまこと。

「誰?」

 ーーまこと。わたしだよ。まこと。

 優しい声。この声は。誰?

「え?誰?誰なんだよ?」

 ーーまこと。わたしの可愛い。まこと。

 この声は?でも?でも、確かに。

「え?……おばあちゃん!?おばあちゃんなの?」

 ーー久しぶりねぇ。誠。

「本当におばあちゃんなの?」

 ーーそうよ。私は誠のおばあちゃん。

「おばあちゃん!俺、俺、おばあちゃんに話したい事がいっぱいあるんだよ!」

 ーーそうね。おばあちゃんも誠にお話したい事がたくさんあったの。

「おばあちゃん。おばあちゃん」

 ーー誠。ごめんね。おばあちゃん、あなたが何を感じて、どうしていたかを全部知っていた。でも、おばあちゃんにはどうする事も出来なかった。

「おばあちゃん。僕。僕。あのね。あのね。僕のお母さんもお父さんもあれから、ばらばらになっちゃって。でも僕。僕。どうしたらいいのかわからなくて。だから、ぼく」

 ーーそうよねぇ。おばあちゃんはちゃんとわかってますよ。大丈夫。安心して。

「でも。でも、なんでこんなことになっちゃったの?おばあちゃんはわかってるの?なんで、こんなことになっちゃったのか?」

 ーーえぇ、えぇ、わかっているわよ。誠。そうね。……このお話はおばあちゃんが死ぬ間際から始まっているの。小さい。小さい。今より、ずっと小さい。子供の誠。そう言ったら、怒るわよね。でも、私にとっては、まだまだ小さい。小さい。可愛い誠にはわからなかった、お話。

 ざわめく。桜。

 小さな花筏。映る影。

 揺れる。

 形。移る影。

 あれは。あれは。あれは。

 移ろう影。

 あの影。花筏に映る。

 影。あの影は。

 あれは。

 母さん。

 あの日の。母さん。

 古い。古い思い出。

 母さんに連れられて。デパート。ゲーム。やさしい母さん。お寿司。おいしかったぁ。帰り道。桜。

 川。散る。花びら。引かれる。力。

 母さん。

 揺れる。川面。花筏。あの影。

 あれは。

 あれは。

 おばあちゃん。

 あの日も。また。


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