花筏8
母さんは、また泣くようになった。
今度は僕へのあてつけなのだろう。
僕は苛立っていた。
母さんが僕へのあてつけに泣いている。
僕は苛立っていた。
世の中で言われているイケナイコトをしてフリョウになってやろうかとも思ったけれど、僕はもっと効果的な方法を思いついた。
僕は一生懸命勉強した。
本気で。
学校では、素行を疑われるようなそぶりは一切みせなかった。
先生の評価は、完璧、だった。
家の中では、僕は別人だったけど。
家にフリョウと呼ばれる人たちをひたすら呼び込んだ。酒にタバコにドラッグにSEX。
彼らは居場所に困っていたから、僕の誘いを断るコトなんかなかった。彼らは僕を利用しているつもりだったのだろう。それもまた計算通りだった。
ありきたりで稚拙な方法。
でも、母さんには効果的だった。
自分の息子がタバコを吸っている。
自分の息子が酒に酔っている。
自分の息子がイケナイ薬でラリってる。
自分の息子が知らない娘とSEXをしている。
家の中の恥を外に出すような人ではなかった。
「でも、おたくの誠君はおできになるから」
「奥様はお幸せよねぇ。まぁ、こう言っちゃなんですけど、旦那様とはアレだったかもしれないけれど、でも息子さんがしっかりなさってるから」
「うちの息子は本当にバカで。それに比べて誠君は、いいわよねぇ」
母さん。どうするの?なんていうの?本当の事を言って。ねぇ、母さん。
「えぇ」
「まぁ」
「そんなこともないんですよ」
失望。
誰にも知られなければ、ない事と同じ。だよね。母さん。
でも、どこから漏れるか、秘密を知っているのは母さんと僕だけではない。
僕のユウジンタチ、あのフリョウタチが知っている。
ヤツラが出入りしている事を近所のオクサマタチが見ている。
気が気じゃないだろ?母さん。
それでも、まだバレない。まだわからない。誰にも。誰にも知られない。
何時ばれるか。誰から漏れるか。
スリリングなゲーム。
僕には失うものはない。
母さんは、泣いているだけ。
母さん。
母さんが、失うものはなに?
知りたくて。試したくて。
嘘です。
本当は、ただただ楽しくて。母さんが何を考えているかなんて、どうでもよくなっていた。
僕は近所の人や先生を欺いている自分がただただ楽しかった。
フリョウは優しかったし、ね。あれ?うーん、でも、それは微妙だけど、まぁ、優しいんだろ。きっと。