花筏19
4.その先
花筏。
幾百、幾千、幾万の桜の花びらが集まり作り出した筏。
花びらの一枚一枚は誰かの思い。誰かの心。
あの筏は、いったい、どこへ流れて行くのでしょう。
花びらにのせた思いの重さで、あの筏は沈みます。
花びらによせる希望の気持ちで、あの筏は浮かびます。
月光のもと、花筏は浮かびつ、沈みつ、ゆっくりゆっくりと進みます。
行着く先は、あの人のもと。
懐かしい、あの人のもと。
花筏はゆっくりとゆっくりと、ゆらりゆらり、進みます。
5.山崎
健一。何やってんだよ。
何で、こっちに来ちゃうんだよ。
俺がおまえの事を恨むなんて、あるわけないじゃん。
そうだろ?
健一が気にしていたあの日のあの電話。
俺は、ちっとも気にしてなんかなかったよ。
あぁ、健一機嫌悪かったな。今度、電話する時は機嫌直ってるといいけど。ぐらいでさ。
死なないよ。健一。俺は、あんな電話位じゃ死なない。
健一、知ってたじゃん。俺がどんな酷い目にあってたか、死ぬぐらいなら、もっと前にとっくに死んでるよ。
あれは、自殺なんかじゃないんだ。ただの居眠り事故。前の日にゲームやっててさ。ついつい明け方まで。で、寝不足で居眠り運転ってやつだよ。
あのCD屋の前でなんて、そんなのただの偶然だよ。
健一。おまえがどう思っていようと、やっぱりおまえはいいヤツだよ。俺が死んだ事、その前の電話、そんなに気にしてくれているなんて。思ってもいなかった。
どうして自分がいいヤツだって事に気が付かなかったの?俺が、何度も何度も何度もおまえの事、いいヤツだって言ったじゃん。どうして、信じてくれなかったの。健一。
花筏と満月の伝説。おまえに話すんじゃなかったよ。
6.おばあちゃん
まったく、本当に手のかかる娘と孫だこと。
なんとか、無事おさまったから良かったようなものの、一歩間違えれば取り返しのつかない事になっているところじゃない。
和美は、小さな頃から思い込みが激しいところがあったから、私が死んだ事をなんとか自分の中で納得させようとして、それでも出来なくて、あんなちっぽけな石ころのせいにして何もかもを台無しにするところだったのだろうし。
そんな何もかも私のせいにされても困るわよ。
あぁ、それでも、和美は私の話した花筏の伝説をおぼえていて、誠にもそれを話していてくれたのね。
本当に、本当に、良かった。
7.和弘
洋子。洋子。どこにいるんだ?
ここは寒くて、暗くて、一人ぼっちで。寂しいよ。洋子。
洋子は、俺の話た花筏の伝説を覚えていてくれたじゃないか。それで、俺の気持ちをわかってくれて、復讐をしてくれるって。そう、言ったじゃないか。
洋子があいつを殺してくれたら、俺、きっとこの寒くて、暗くて、寂しい場所から抜け出せると思うんだ。だから、ずっと待っているのに。あれっきり。
洋子、おまえ、どこにいるんだ?どこにいっちゃったんだ?俺の事なんか、俺との約束なんか忘れて、どこかで楽しく暮らしているのか?
だから、俺はいつまでも、いつまでも、こんなところに、こんな寂しい場所にいなければ、いけないのか?
洋子。助けてくれよ。早く。助けて欲しい。早く、あいつを殺して。俺と一緒に楽しくやろうぜ。なぁ、洋子。俺は待っているんだよ。おまえの事を一人ぼっちで。
8.花筏
花筏と満月の物語はこれで終わりです。
はないかだ。それは、この物語のタイトルでもあります。
願わくば、今が桜の季節ではなく、今宵が満月ではないことを。
花筏。その影は、その声は、この世で会う事は二度と叶わぬ人。
花筏。見つめれば、叶わぬ夢が突然目の前に現れる。
一番会いたかった自分に会える。
あなたが思う。あなたに会える。
満月の夜に花筏を見てはいけないよ。






