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花筏13

 そこからは良く憶えていません。

 和弘のお葬式をどうしたのか、誰がいたのか、誰がいろいろな事を決めたのか。和弘には身内と呼べる人がいなかったのに、誰がどうしてくれたものか、気がついたらお通夜をやっていて、お葬式をやっていて、和弘は骨になっていて、何故か、どうした理由か、私が骨壷をだいていました。

 何もわからないから泣きませんでした。そう決めていただけかも知れませんけど。そう、私、何もわからないって決めていたから。

 ただ、棺に和弘が大好きだったダイビングの器材を入れようとしたら、それは燃えないから入れる事は出来ませんと葬儀屋さんに言われた時だけは、涙がとまらなかったのを憶えています。

 あの世なんかあるかないかわからないけど、もしも万が一あったら、あんなに大好きだったダイビングの器材を持たせてあげないと、和弘、本当に困ると思って。なのに何でこの葬儀屋はそんな簡単な事もわからないのかと思うと、悔しくて、悔しくて、涙がとまりませんでした。


 そうして、いろいろな事が済んでしまうと、あっけないほど簡単に、何もすることがない普通の日々が戻ってきました。

 すっかりもとの生活に戻った頃。もちろん、私のじゃありません。私以外のみんなの生活がもとに戻った頃。トラブルの真相を教えられました。あの日、酔ったインストラクタと和弘に何があったのか。一緒にいた、和弘とそのインストラクタ……田口の友人達から。

「あの日、カズと田口は久しぶりってことで、かなり盛り上がってたんですよ。昔話に花が咲いて、最初に海洋実習に出たときのビビり様は、今まで俺が教えた中でもダントツだよ。なんて田口に言われて、そんなこと言うけど、田口さんの教え方がビビらせるような内容だからいけないんですよ、なんて感じで。な?」

「そうそう、かなり盛り上がってて、俺達も、田口さんとカズさんの昔話に興味津々で、へぇ、とか、ほんとですか?なんて、楽しんでました」

 なんだか彼らは事件の報告をする自分にこそ興味があるようでした。

「どうも様子がおかしくなってきたのは、店を出た後、駅に向かう途中からで」

「うん。そうだな。確か、カズさんが、インストラクタの助けになるような仕事がしたい、みたいな話をした辺りから、ちょっと」

 何度も聞いた、和弘のおとぎばなし。

 俺は、インストラクタが少しでも報われる手伝いがしたいんだよ。

「なんか、田口さんも酔ってたんでしょうけど、突然、お前は気楽だよな。そうやってロクに金も稼がないくせに、何がイントラの助けになりたい!だよ。お前みたいなのに助けてもらえるぐらいなら、苦労はしねーよ。みたいな事を言ったんですよ」

「俺らも田口さん言い過ぎだなぁとは、思ったんですけど、当のカズが別に気にする風でもなくて、そうですよね。すみません。みたいな感じでひいたんで、まぁ、今日は酔ってるけど、仲の良い二人のことだから一晩寝れば元通りになるんだろうなぁ、ぐらいに思ってたんですよ」

「まさか、あの後にあんな事になるなんて……」

「うん。思いもしませんでした」

「カズさんは、なんか折角会ったのに、俺が余計な事いったばっかに、しらけさせちゃってすんません。俺、ちょっとここで失礼します、って離れていったんですよ」

「いや、ここでって、ホームだしどこも行くとこなんて、とは思ったんですけど、あぁ同じ車両に乗るのは気まずいかもなぁって、見送ったんですよ。そしたら」

「タブン、思いの外酔ってらっしゃったんでしょう。ずいぶん端っこ歩いてて危ないな、と、思ったときには足を踏み外してしまって。」

「本当に申し訳ありません、田口も酷く後悔していて今日も来るって言ってたんですけど、洋子さんの気持ちも考えろって止めたんです。いつか、もしも、許せるなら、田口と会ってやってください」

 そう話すだけ話すと、帰っていきました。


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