~屋根まで飛んで壊れて消えた~
本作は同名作を大幅に改稿したものです
6月中旬の金曜日。その日はとても暑くなる予報だった。
とはいえ、朝はまだ肌寒く私は制服の上に黒のパーカーを羽織る。衣替えを終えて夏服になった高校の制服は公立高校らしいと言うべきか、可愛さの欠片もない。
部屋に置かれた姿見の前で、一通り自分の格好を確認し部屋を出る。
多少髪は乱れていたが直している暇はない。それでも仮にも花も恥じらう女子高生。跳ねた前髪を強引にピンでまとめながら階段を降りる。
玄関でいつくも並んだ自分の靴の中から手近のものを選び足を入れる。
「行ってきます!」
ドアを開けると、外の冷たい空気が家の中に入ってくる。朝の冷えた風は私の身体を包み、外に出ることを躊躇させる。飛び出すように家を出て、遅刻を覚悟しながらも高校に向かって走り出す。後方で勢いよく閉めたドアのたてる音に多少の罪悪感を感じながらも止まることはない。
家の門を抜け、しばらく行ったところで自分が鞄もなにも持ってないことに気づき家に引き返す。
……バカなのか、私。何しに行く気なんだ
「ただいま!」
ついさっき出たばかりの家に駆け込み、自分の部屋に鞄を取りに行くために階段を駆け上がる。
「どうしたー」
1階のリビングから気だるげな男の声が聞こえてくる。
「鞄忘れたの!」
階段を降りながらその声に返事をする。
「うわー、バカだな。やーい、バカ妹」
「うっせぇ!ニート野郎、とっとと仕事とってこい!」
ったく、バカ兄め。私に何か言う前に職につきなよ。
「ちょっ!?お前。それは言わない約そk
「行ってきまーす!」
……本日2度目。
ドアを開け家を飛び出す
「ねぇ、聞いてる!?待て、待つんだ夏波ィィィイイイっ!!
兄の声を後ろに残し、私は学校に向かう。
……これは遅刻かな。間に合う気がしないよ。
も、もう少し早く起きるべきだった……。いつも通りに起きてれば……いや、いつもこんな感じか
お布団が悪い。何故か寝る時より朝起きた時の方が気持ちいいお布団が悪い
いや、本当になんだろうね、あれ。布団から出る時の名残惜しさが半端じゃない感じは。
そんなことを考えながら走っていると、学校が見えてきた。
家から一番近い高校っていう基準で選んだ学校だが、一応進学校らしい。自称かもしれないけど。
校門の前を通った時、ちょうど予鈴が聞こえてきた。
「これは、間に合うかも……」
昇降口で靴を履き替え、誰もいない廊下を走り教室に
向かう。
自分のクラスの前で息を整え、教室のドアを勢い良く開く。
「間に合った!」
教室の中を見渡すと、既にクラスメイト達は自分の席に着いていて担任が教壇に上がっていた。
……ど、どういうことだってばよ。
クラスの全員の視線が私に集中する。
「新崎。」
担任が声をかけてくる
「な、ナンデショウ。」
え、何。間に合ったよね、私。まだ本鈴は鳴ってない……はず、
慌てる私に担任は笑顔で
「急いで来た所悪いが、……間に合ってない。遅刻だ」
死刑宣告をした
「今年に入って何回目だと思ってるんだお前は。昨日はギリギリ間に合ったからって気を抜くんじゃない」
ちょ!?何言ってるんですか。
「せ、先生!まだ本鈴鳴ってないじゃないですか!まだ大丈夫です。そろそろ鳴るはずです!ほら……
……あれ?もう予鈴から五分以上経って、る?」
「新崎、チャイムはもう鳴ったんだよ。……五分以上前にな!」
「な、なんだってぇー!?」
昼休みになると、1人の女子が弁当を持って私の席に近づいてくる
「夏波。お昼食べよー。」
「いいよー。今日は教室で食べるんだ、美奈。部活の方は良いの?」
美奈は私の前に座ると、弁当袋から弁当を取り出し始める。
「うん。今日は気分じゃないから、行かない」
「……そういうもんなの?気分じゃないから、行かないとか。」
部活のあの異常なまでな仲間意識は、何なんだろうか。若干強制的な感じがしてやだよね。
まぁ、私は帰宅部だから関係ないけどね。仲間意識なぞ存在しない。
「そういうもんだよ。ああいう付き合いは適当でいいの」
「ふーん。」
「聞いたくせに、大して興味ないでしょ、あんた」
「まぁね」
私には関係ないからね。さぁて、弁当食べよーっと。今日のおかずは何だろなーって私が作ったから分かってるんだけどね。
「うむ、うまし」
「そ、良かったね。というか、私のことより自分の方心配しなよ。今日も遅刻したんだから」
「間に合ったと思ったんだけとね…。反省文とかないと良いけど。」
そろそろありそうで怖い……
「小学校のときから言われてるんだからそろそろ直しなよ。」
「むー。努力はしてるんだけどね。前みたいに美奈が迎えに来てくれれば良いのに。」
「やだよ、夏波待ってると、私も遅れるんだもの」
ちぇっ、悪いとは思ってますよー
「なんで起きられないんでしょうねぇ。布団かねぇ、オフトぅんが悪いですかね」
「寝るのが遅いからでしょ。夜遅くまでゲームやってないで寝な」
「美奈は私のお母さんか」
ゲームはねぇ、止められ無いよね。ある時ピタッとやらなくなるらしいけど私はまだ楽しいと感じるからなぁ。最近のブームはスマホの乙ゲーです。あの雑さと都合の良い展開を楽しんでます。実際にあんな痛々しいセリフ言われたらその場でのすけどね。
「あー、眠い」
「ふ~ん♪ふふ~ん♪ふんふ~ん♪」
学校が終わり、明日が土曜日。私は上機嫌で帰路についていた 。午後の4時を過ぎたあたりから眠気が完全になくなり本調子になるので、いつも大体テンションが高いが今日は特にだ。
「ちょっと!夏波危ないよ。降りな!」
道路の縁石にのり、両手を広げバランスをとりながら歩いていると、隣りから注意される。
「大丈夫だよ~。そんなに心配しなくても。ほら、見て。この圧倒的な安定感!」
心配をしてくる彼女に私は、縁石の上で手を広げ安全性をアピールする。
「だから止めなってば!ったく。普段から色々やらかして心配かけてんだから。一緒にいる時ぐらいは大人しくしててよ。」
「し、失礼な。いつ私が美奈に心配かけたって言うのさ。」
心当たりがありすぎて強く言い返すことができないよ……。
素直に縁石から降りるべきなんだろうけれど、正直縁石の上を歩くのが少し楽しくなってきている。なので、そのまま続けていると
「珍しく部活がオフだからって、一緒に帰ってあげてるのにこれだよ……。夏波は。だから彼氏出来ないんじゃないの?」
な、なんと失礼な。
「じ、自分がいるからってぇ。見てください!皆さん、これがリア充のヨユーってやつですよ!」
立ち止まり、車道に向かって両手を大きく広げながら呼びかける。道行く人達に奇異の目で見られるが気にしない。そのまま体の向きをかえ歩道に向かって呼びかけようと--
「え」
「ちょっとっ!?夏波!」
私は縁石を踏み外し、道路側に後ろに倒れこんだ。そして、そこに車が迫ってくる。
「うわっ」
急いで立ち上がり車を避けるも、さらに道路に入り込んでしまう。
「早くっ!戻ってきな!」
歩道で、美奈が私に必死に呼びかけてくる。
「分かってるよ!っと、危なっ!」
それに応える間にもう一台、車が来たのを避ける。そのまま歩道側に急いで戻ろうとする。
「夏波っ!早く……って、後ろぉっ!」
「え?」
後ろ?つい、立ち止まって後ろを振り返ってしまう。そこには明らかにスピードのおかしい車が物凄い勢いで私めがけて突っ込んできていた。何とか歩道にたどり着こうとするがーー
轟音とともに私の体は空高く舞い上がった。そして、そのまま地面に叩きつけられる。凄まじい衝撃が体中を襲うとともに、何かが潰れる嫌な音が聞こえる。季節はずれの蝉の声がやけに耳につく。
「夏波ぃ!」
美奈が私にかけ寄ってくるのが足音でわかる。
「み、な……」
激しい痛みの中、だんだんと意識が薄れてくる。側に来た美奈に残る力で手を伸ばす。
「かな、かなぁ……」
伸ばした手を握りながら美奈が私を、小学校以来呼ばなくなったあだ名で呼ぶ。そして、徐々に幼稚園からの幼なじみである親友の顔も見えなくなってくる。
「う、あ……」
何も見えなくなり、自らの死をすぐそこに感じる。死にたくない。いくらそう強く願ってもどうする事もできない。
遠のく意識の中、美奈の手を強く握る。だが、その力も弱くなっていき感覚もなくなる。
ありがとう、ごめんね。そう、伝えたかった。
心を満たす無力感の中
ーー私の意識は途絶えた。
完結までいってみせる……