☆○年○月
☆○年○月
「おかけ下さい」
三十代前半と思われる比較的若めの医師に促されてその母親はソファーへと腰を下ろした。
「検査の結果が出たんですか?」
その医師は何やら書類の束のようなものを持ち、それを読みながら彼女の向かい側のソファーへと座る。
「結果と言っても参考程度のものです。こちらとしても治療の方向性を見極めるためのものですから」
医師は書類から目を離し、柔らかに微笑みながらそう言った。
「それでも、あの子の異常さを説明できるくらいの結果は出たのではないのですか?」
「異常かそうでないかを判断するのは難しいですね」
「先生。まわりくどい話は結構です。はっきりとおっしゃってください」
「それでは、説明いたしましょう。ただし、先ほども申しましたが、あくまでも検査結果は治療の方向性を見極めるためのもの。今からお話するのは、可能性の一つに過ぎないということをご理解いただきたい」
「わかりました。そのつもりでお聞きいたします」
彼女は椅子に座り直して姿勢を正し、真剣な表情でその医師を見つめる。何を言われても驚かないといった心の準備を整えたのだろう。
「お子さんには……そうですね、わかりやすく説明するならば多重人格障害の疑いがあるといった方がいいでしょうか。しかしながら解離性同一性障害とはまた違ったものなのかもしれません」
「やはり多重人格ですか」
「イマジナリーフレンドという言葉をご存知ですか?」
「いえ、初めて聞きます」
「言葉通りの意味ですよ。つまり『想像上の友人』。これは幼少の子供に普通に見られる現象で、成長するにつれ通常は消失していきます。ただ、強いストレスにより交代人格化することが希にあるようですね。お子さんの多重人格性はその為ではないか、というのが我々の見解です」
「あの子のもう一つの人格は、あの子の想像でしかなかった友人ということですか?」
「簡単に言えばそうです。お子さんのもう一つの人格として現れることになりますから、他人が認識するのも難しいことでないでしょう」
「その場合、カイリセイなんたらとどう違うのです?」
「解離性同一性障害の場合、受けたストレスを自分のものではないと思い込もうとします。その結果、多くはストレス時の記憶を別の人格に委ねてしまいます。ところが、イマジナリーフレンドの場合、経験と記憶は共有です。でなければ、自分と作りだしたもう一つの人格との間で会話などできませんから」
「独り言とは違うんですか?」
「幼い子が人形遊びをしている様子を思い出してください。人形は人間ではありませんからそこに人格などありません。ところが、幼い子はその人形と必死に会話をします。人形に自分が想像した人格を投影して話をするのです。ここで勘違いされないでほしいのは、この状態はけしてめずらしい例ではなく、幼少時なら誰でも行う可能性のあるごく普通の行為なのです。イマジナリーフレンドを持ったからといって、精神的な疾患があるとは必ずしもいえません。問題なのはイマジナリーフレンドが独立した人格として現れることです」
「それが多重人格の原因……ということですか?」
「断定はできませんが我々はそう疑っています。ただ、正確にお答えするならば、原因ではなく要因です」
「あの子は普通に戻れるのでしょうか?」
「あまり深刻に悩まれないでください。大丈夫ですよ。統計的にもイマジナリーフレンドは、成長とともに消失すると言われておりますから」
☆【Key plate-layer】
そういえば初めて会ったとき、人形の話で盛り上がったの覚えていますか?
まあ、フィギアだったらさすがにひいてましたけど、アンティークドールってとこがギリギリでわたしの琴線に触れたんですよね。
最初は、見た目とのギャップに驚いたりしましたけど、わたしだって人のことは言えません。そういう意味じゃ、わたしと先輩って似てるんですよね。
もしかしたら※※※の構造も一緒だったりして……えへへ。
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