彼女
彼女は僕にこんな言葉を言うのです
「私以外の女の子と話さないで」
この言葉が僕を狂わせるのです
「えっ」
漏れた言葉から
見えた彼女の表情
それは二度と忘れない微笑みだった
「慧ちゃん、約束ね?」
その微笑みで
僕はちょっとした決意をした
「わかった」
喉につまってたツボを飲み込んだ
ゆっくりと歩き始めた君の後ろ姿を僕はじっと見つめていた
彼女は僕の方に振り返って
「慧ちゃん」
「どうしたの?」
下を向いた彼女を支えるように前に立つ
彼女は僕に体重をかけて
「慧ちゃんの彼女になれてよかったって思ったの」
彼女と視線は合わない
照れた顔好きなんだけどな
「ね、遥香さん」
僕は目を閉じてゆっくりと開いた
「なーに?」
下を向いていた彼女も僕を上目使いで見つめる
「その言葉は嘘じゃないよね」
もう僕を悲しませないでよ
信じさせてよ
純粋に遥香さんだけを思って
愛せるように
ね、遥香さん
どうして貴女は
僕を選ばないの?
彼女は静かにうなずいて
「うん」
LINEの通知が鳴り響いた
「だめ!出ないで」
ズボンのポケットから携帯を出そうとした
僕の手を彼女は力強く掴んだ
「だめ?」
「慧ちゃん」
泣きそうな声で名前を呼ぶ彼女を抱きしめた
「わかったから泣かないで」
あとで恵美に返事を返しておこう
今日は朝から上田が騒いでいる
もうちょっと静かにしてくれよ
耳せんでも買おうかな
鼓膜が破れるんじゃないかってくらいの声で
騒いでは走りまくる
そう、今日は体育祭だった
運動が得意な上田にとっては
今日はいい日なのかもしれない
僕はただのだるい日
としか考えられないが笑
運動場で騒がしい声
「あの人綺麗だなー」
「めっちゃ可愛いじゃん」
「うらやましいー」
「あの人って少し前、校門で泣いてなかったっけ?」
「そうなの?」
「俺、みたみた」
「あの時、確か高杉先輩が...」
僕の顔を見た女の子は開いていた口を閉じた
視線を戻して俺は歩いた
遥香さんがいる
遥香さんを何度探しても
姿を確認できない
どこにいるの?
「高杉!お前の順番くんぞ!はよ、来い」
「ああ、わかった」
結局、姿は見えなかった
走るとかだるいな
適当に授業で返事してたせいか
リレーのアンカーなんかやらされるなんて
とりあえず走るしかないな
1,2,3
タイミングを合わせて
ゆっくりと走り始めた
少し息を吐いて
手を伸ばしたその手に
赤いバトンが収まって
僕は走った
確かバトンもらう前は3位だったような
走り終わる頃には
まさかの1位だった
「お前、足速いじゃん!」
「たまたまだよ」
息が切れて苦しかった
走っている時
風にあたって少し気持ちよかった
「高杉先輩!かっこいい!」
「めっちゃかっこよかったね」
「先輩、彼女いんのかな」
「えーいるよ!絶対!あの人とかさ」
遥香さん
見ていてくれましたか?
僕、貴女の事が大好きです
貴女に愛される事が
僕の一番の幸せです
だからどうか
僕だけを見てください
そんな願いも届くはずもなく
時は残酷に過ぎていた




