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六花錦景(We Need Medicine)  作者: 枕木悠
第一章 告白(Dramatic Presentation)
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第一章⑤

 古田は会議室から出て行ったセイコのことを見つけることは出来なかった。アサコが何度も電話を掛けたがセイコは電話に出なかった。腕を組み、唸ってからの古田の決断は早かった。「セイコは生牡蠣を食べてノロ・ウィルスに感染した、残念だ、本当に残念だ、ロケは四人だけで、なぁに、全国ネットじゃない、構わないだろう」

 ロケは渋谷の街で行われた。ユナイテッド・メディセンズのメンバが東京のことを何も知らないローカル・アイドルと一緒に渋谷の街をぶらぶらと歩いて、適当なコメントを言い合う、思想の欠片もない番組のロケだった。今回、ユナイテッド・メディセンズと一緒に渋谷の街を歩いたのは、G県錦景市のローカル・アイドル、エクセル・ガールズの森永スズメ、橘マナミの二人だった。二人はローカル・アイドルにしておくにはもったいないほど可愛いらしかったが、東京のことを本当に何も知らなかった。二人はまさに田舎者がするコメントを連発して、番組プロデューサのことを喜ばせた。マミコトも気取っていなくて自然体にカメラの前でしゃべる二人のことをすぐに気に入った。

 ロケの後は都内のスタジオで番組内で流すライブの撮影が行われた。エクセル・ガールズとユナイテッド・メディセンズが一緒に互いの楽曲を一曲ずつ歌った。エクセル・ガールズの楽曲は「エクセル・ディスコ」。国際的表計算ソフトエクセルを皮肉った歌詞がとてもユニークで楽しい曲だった。

 撮影終了後、マミコトは自宅のマンションにエクセル・ガールズの二人を招いた。メディセンズのメンバは空気を読んでマミコトの誘いを断った。今夜、マミコトの両親は二人とも海外に出張だった。仕事で忙しい二人が家にいることは少なかった。マミコトに兄弟はいない。つまりはマンションに三人だけだ。マミコトはどうやって可愛い二人のお姉さんに猥褻なことをしようか、料理を作りながらずっとそればかり考えていた。一緒にお風呂に入ることを考えて鼻血が出そうだった。

「やっぱり似てる、」食事中、スズメは両手の人差し指と親指で輪っかを作り、その輪っか越しにマミコトのことを見て発言した。「そっくりだ、ね、マナミ」

「あ、やっぱりスズメちゃんもそう思ってた?」マナミはじっとマミコトのことを見つめて頷いている。「そっくりだよね、そっくり」

「え、誰にですか?」

「私の親友でね、」スズメはマミコトの左手を触り、指を絡めてきた。ちょっと驚いた。「ハルカって言うんだけど、眼鏡を掛けて、髪の毛を短くしたらもうそっくりだよ、最近、ハルカと会ってなくてちょっとセンチメンタルだったんだけど、マミコトちゃんのおかげでハルカ成分が補給されたって感じかな」

「最近会ってないって、一昨日会ったばかりじゃない、もぉ、スズメちゃんってば、ハルカちゃんのことが大好きなんだからぁ」

「ええ、そうだっけ?」スズメは素敵な笑顔でとぼけている。

「はい、これがハルカちゃんだよ、」マナミはスマホの画面にそのハルカという人の写真を映して見せてくれた。ハルカの両脇には、彼女を取り合うようにスズメとマナミの二人が写っていた。「ほらぁ、そっくりでしょ?」

 マミコトは全然似てない、北関東の田舎娘と一緒にするなっていう言葉を用意していたのだが、ハルカは本当にマミコトにそっくりで、生き別れの姉がいるとするならば、それは彼女だと確信をもって言えるほどだった。ちょっとこれは衝撃的だった。「……信じられない」

「でしょ?」マナミはニコニコしている。

「どんな方なんですか?」マミコトは聞く。とってもハルカという人に興味があった。興味があるし、姉にしてやってもいいかなって思っていた。

「うーん、」スズメは腕を組み唸ってから言う。「……魔女、かな」

「魔女?」

「うん、図書室に住まう魔女、それがハルカなんだな」言って、スズメはローストビーフのスライス五枚にフォークを突き刺し一口で食べた。

「それは、なんていうか、」マミコトはスズメのつまらない冗談に無理に笑った。「面白いですね、ははっ」

「ちょっと性格も似てるかも」マナミが発言する。

「えっと、例えば、どんなところ、ですか?」

「どんなところっていうか、こう、」マナミはマミコトの全身を包み込むようなジェスチャを見せる。「とにかく、ねぇ、全体的な、オーラが、似てるんだよ、ねぇ、スズメちゃん」

「そうね、どこって、ピンポイントでは言えないんだけどさ、でも、似てる」

「はぁ、」マミコトは曖昧に頷きながらスズメの豪快な食べっぷりを見ていた。「……凄く、よく食べられるんですね」

「え?」マミコトの指摘にスズメは丸い目で睨んできた。

「あ、いえ、何でも、ありません」マミコトは怒らせてしまったかなと思って慌てて首を横に振る。

「普通でしょ?」スズメは表情を素敵な笑顔に戻して言う。「あ、お肉、まだある?」

「あ、はい、」マミコトは理由はよく分からないんだけれど、楽しかった。「沢山食べて下さいね」

 食事が終わってしばらくテレビを見てから、三人は一緒にお風呂に入った。それはスズメが提案したことで、アレコレ言い訳みたいなことを考える必要もなく、マミコトは二人の裸を見ることが出来た。二人とも魅力的な体をしていた。ずっと鼻血が出そうだった。

「ねぇ、マミコトちゃんってレズビアンってホントなの?」

 頭を洗ってくれていたスズメは聞いてきた。

 ちょっと唐突で頷くのにちょっと、躊躇った。自分の告白が浸透しているこの自由な世界にまだ慣れていないんだなと実感した。「はい」

「話題作りとかじゃなくて?」

「はい、真実なんです、私、レズビアンなんです」

「そっか、」スズメはマミコトのシャンプをシャワーで流した。「じゃあ、私たちの裸を見て興奮したりするの?」

 マミコトはなんて答えるのがベストか考えながら、スズメの方に振り向く。

 スズメは変梃なポーズを取っていた。きっと彼女なりの悩殺ポーズなんだと思う。

 マナミは浴槽の中で、手の平に泡を掬ってマミコトの方に飛ばした。

 泡がマミコトの最近やっと徐々に膨らみ始めた胸に付着する。

 膨らみの足りない胸はマミコトの悩みの一つだった。

「大丈夫、私は成長しなかったけど、来年急成長するから、」スズメはマミコトの胸に爪を立てて謎のアドバイスをくれた。ちくちくした。「ハルカがそうだった、中学三年の夏、ハルカの胸は急成長したんだ、だから心配しないで」

「本当ですか?」聞きながらずっとマミコトは鼻血を我慢している。

「本当よ、ハルカを見れば分かる」

「会いたいな、」マミコトの気持ちがそのまま声に出た。「でも、顔が似てるからって、胸まで似るとは限らないですよね?」

「あ、鼻血」

「え?」

 スズメはマミコトの鼻下を人差指で触る。

 赤い血がスズメの指先に付いている。


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