ZZZ
涙の理由は分からない。
涙の理由は分からないまま、私は疲れて寝てしまった。
錦景市の橘マナミの邸宅は広く、二十三日の夜はそこで眠った。左にマナミ、右に森永スズメがいて、二人のおしゃべりは止まらなかったんだけど疲れて先に寝てしまった。
寝息を立てて。
気付けば私は夢の中にいる。
私は錦景市の街を歩く。
今日歩いた街を振り返る夢。
いつの間にか、あのマクドナルドに私は一人。
いや、違う。
対面に、赤毛の少女が前髪を弄っている。
その瞳は大きく、瑠璃色をしている。
「あなたは誰?」私は聞く。
その少女は私の知らない少女だった。
「私は火の魔女」
「魔女?」
「でも、」少女の声は小さいがしっかりと聞き取ることが出来た。彼女の表情には変化がなく、まるで人形がしゃべっているようだった。「この世界では幽霊と言うみたい、体を失ってこの世界に漂う魂、それが私、私は幽霊」
「幽霊?」
「ええ、でも、私は第二世界の住人だから、幽霊という言葉がここで適切かどうかは分からない、正直微妙、あなたはあまり私を怖がっていないようだし、幽霊とは怖いもの、未知なるものの意味として何より先立つならば、私は幽霊ではなくて、」少女は首を傾げた。「何なのかな?」
「普通の女の子にしか見えないけど」
「そう思うのはここがあなたの夢だから、夢でなくて現実なら、ここはとても不自然な世界、例えばそう、マクドナルドには今私たちだけしかいないね、おかしなことでしょ? それからマクドナルドの照明はこんなに真っ赤じゃないでしょ?」
言われて上を見れば、確かにこの照明は赤い。
「この赤は私の色、」少女は自分の心臓を指でなぞってから、セイコの心臓を指でなぞった。「そしてあなたの色よ」
しかし触られた、という感覚はない。「ここは夢の世界?」
「そうよ、今あなたが見ている夢に、私はお邪魔しているのよ、夢でなければ話すことは叶わないから」
「夢でないと話せないの?」
「この世界に溢れるエネルギアを沢山巻き込むことが出来たなら私は夢でなくてもあなたと話が出来るのだけれど、でも、私の魂は強くない、硬くもないし色もないし、私にはこの世界に向けた本気のクレームもないから、だから、夢でしかあなたと会話できない、会うことも出来ないこと」
「私に会いに来たの?」
「いえ、」少女は首を横に振る。「ただこの世界で揺れていたら傍にあなたがいた、様々な苦悩を抱えた女の子、それに少し私は反応してしまったの、私はちょっと企んだ、こうしてあなたの夢にお邪魔しているのにはきちんとした理由があるのよ、理由がある、嘘だとしても、信じて欲しいな、真実だから、そしてきっとあなたのためになると思うから、だから、信じて、ここが夢だとしてもね」
「信じてって言われても、話の内容にもよるよね」
「輪廻を知っている?」
「輪廻って、輪廻転生のこと?」
「私は確かめたかったのよ、」少女は無表情を変えない。「輪廻があるという真実の気持ちを、気持ちというか、予感だわ、私には予感があった、輪廻出来るという予感、それを確かめたかった、そしてそれは真実だった、でもね、この作業を通して、私は第二世界で氷のナイフで手首を切って死ぬことによって真実を確かめることが出来たんだけど、私は今、輪廻転生のむなしさを感じている、むなしいわ、とても虚しい、皆、永久に回転する歯車だと知った、私たちは終わることのない世界を彩る素敵な歯車、回転することによって生まれる光は綺麗だけれど、私は煌めく色に虚しさを感じているのよ、そして神様になりたいと、予感しているのよ」
「神様?」
「傲慢かな?」
「神様って、神様?」
「神様なんていないと思う?」
「分からないよ、そんなこと」
「私は神様はいると思う、輪廻の外に神様はいるはずだわ、とある宗教は真実を予感し、それを体系としているはず、そして方法があるはず、神様になる方法がね、もちろんこれも予感、でも絶対にあると思うんだ、色々試してみようと思うんだ、その最初があなた、あなたを幸せにしたら私はもしかしたら、神様になれるかしら? なんて考えているのよ」
「私を幸せに?」
「救いの手を差し伸べて上げる」少女はセイコの手に触れた。
「私の救いとは何?」
「知っていることをわざわざ聞かなくても、いいと思う」
「私は知っているの?」
「知らない人がほとんどだけど、あなたは知っているでしょ?」
「分からない、それは何?」
「いじっぱりね」少女は初めて表情を変えて、笑う。




