第二章⑥
目が合った。
それはつまり、彼女もハルカを見ているということ。
ハルカは彼女の目をまっすぐに見つめながら近づいた。
向こうも視線を決して逸らしたりしなかった。
それは考えていることが同じだから?
ハルカは絶対に彼女を捕獲してやるっていう、気分だった。
向こうも同じか。
いや、それ以上の強さをその瞳から感じる。
ハルカは彼女の目の前に立ち、黒縁の眼鏡を外した。
背はハルカの方が高く、ハルカの目線がちょうど彼女の身長だった。
それが二年分の差。
彼女の胸の膨らみは小さい、というか、なかった。
確か二年前のハルカも、同じようになかった。
まるで冬のファンタジィ。
二年前を映し出す鏡が目の前に現れた?
違う。
本当に感じているのは、そうじゃない。
そうじゃなくて。
「お姉ちゃん?」彼女は言って、笑う。
魔性に笑う。
そう。
感じているのは。
彼女はシスタ?
ええっと、名前はなんだったっけ?
昨日、マクドナルドでアイナが彼女の名前を教えてくれたはずだった。
生涯に会うことなんてないと思った少女だから、名前なんて覚えていなかった。
とりあえずハルカは。
急接近。
近づき過ぎたら嫌われちゃうかな。
逸る気持ちは抑えるべきか?
そんな風に思ったのは一瞬だけで。
彼女のことを触りたい気持ちが勝った。
彼女がどこかに逃げないように。
消えないように
ハルカは優しく抱き締めた。
彼女も自動的にハルカの腕の中にすとんと納まった。
彼女の黒い髪から、いい匂いがした。
黒猫のスコールが二人の足元を回る。
「ユナイテッド・メディセンズの、」マナミが抱き合う二人を見ながらニコニコして言う。「岡本マミコトちゃんだよ」
彼女をマシロの家に連れてきたのはエクセル・ガールズのスズメとマナミだった。
「昨日のロケで一緒でね、」スズメが説明する。そう言えば前に、東京にロケで行くと言っていた気がする。「ハルカの話をしたら、会いたいって言うから、連れてきたんだ、ハルカはマミコトちゃんのこと、知ってた?」
「うん、」ハルカは短く頷く。「二千年前からね、ずっと知ってたよ、知ってた」
「およよ、得意のハルちゃんジョークに切れがないよ、」アイナがマミコトの顔を覗き込みながら言う。「でも、ホント、本物はもっとそっくりだぁ」
「何々?」奥で白勝ちの桜錦に餌をあげていた藍染ニシキが来た。「一体、なんの騒ぎ?」
「生き別れの妹が会いに来た、」ハルカはもう一度冗談を言った。さっきのつまらない冗談のリベンジという意味もある。「だから涙がこぼれそうなの、こんな私の顔は見ないでほしいな」
「え、本当!?」ニシキは飛び上がって驚いた。「生き別れの妹!?」
「ま、冗談なんだけど」ハルカは振り返ってニシキに微笑む。ニシキはハルちゃんジョークに騙されやすい、この時代にはとても貴重な女の子。
「もぉ、からかわないでよっ!」ニシキは口を尖らせる。
「でも信じられないな、」マミコトのことをマジマジと観察しながらミヤビが言う。「本当にハルカの妹みたいだ、実は本当の妹だったりして?」
「輪廻する前はもしかしたら、」ハルカはマミコトの瞳の色を見る。「真実は分からないけれど」
「輪廻、」マミコトは瞳を微動させた。「素敵な響き」
抱き合う二人の周りを幽霊のコオリコが旋回する。
彼女の白い髪が舞い、それが明度の強い照明を透過して煌めき、それはまるで雪の輝きを放っていた。
マミコトはそれに気付く様子はないから、魔女ではないのだろう。
彼女が魔女でないことは少しだけ、残念だった。
でもこの錦景市の空気に触れていれば、開花する可能性があるかもしれない。
「あのぉ、やってます?」
抱き合う二人と、店先に立つ少女たちを訝しげに見ながら大人の色香漂うオフィス・レディが聞いた。
「はいはい、営業中ですよ、どうぞ、こちらへ、」アイナはオフィス・レディを誘いながら、ハルカの背中を押して耳元で小さく言う。「二人はマクドナルドにいってらっしゃいな」




