参 甘い甘いお茶菓子はいかが?
赤に青と、緑。どこを見渡しても原色だらけの、少し目に痛い不思議な森を、リアは進んでいた。
森といっても、自分が小さいせいで雑草が木の様に見えてしまうだけなのだが、自分の体ほどある花を見て綺麗だと喜んではしゃぐロマンチックな女の子とは程遠いリアには、花も草も木も全部同じだった。
「あー、匂いがきついなあ」
口元を覆いながら雑草をかき分けると、広い原っぱにでた。そこには、タキシードを来て、ティーカップを手に持ったひとりと、瓜二つのウサギの耳を付けた友達がいた。
「え…!?レ、レン!」
そう。さっきチェシャ猫になっていた友達が、なぜか二人に分裂して、タキシードを着てお茶会を開いていたのだ。
「レン……?私は普段、うかれ帽子屋と呼ばれているのですが」
「私は5月ウサギですよ?」
「え…?何で二人になって、帽子屋とウサギ?チェシャ猫じゃ……」
三人に分裂したレンを見て、リアは何が何だか分からなくなってきていた。混乱する頭でなんとかケータイを打つ。
〇〇〇
リリ[ねぇ、何でレンが二人いるの?チェシャ猫じゃなかったの?]
白兎[あー、そうだね。とりあえずちょっと落ち着いて]
白兎[僕は、君に近しい人をキャストにしようと思ったんだけど、探してみたら彼女しかいなかったんだよね]
白兎[だから、これからも彼女だけが出てくるからね!]
〇〇〇
「私の友達が少ないからか……」
親友とはいえ、キャラになりきって、分裂してたくさん出てくるのは少し嫌だ。でもまあ、仕方ない。さっさとこのゲームを終わらせて、セオを連れて早く帰ろう。
「あなたは弟さんを探してるんですよね?」
「居場所を知りたければ、パズルを解いてください」
呆然とするリアを残して、帽子屋のレンとウサギのレンは会話を進めていく。どうやらあまり時間は無いらしい。
「……分かったわよ」
溜め息をついて挑戦を受けた。すると、二人はニッコリと笑って、帽子屋のレンは三つの箱、ウサギのレンは紙とペンを差し出した。
「この箱のどれかに、体が大きくなるビスケットが入っています。目的地には、このビスケットを食べて大きくなった方が早く着けますから、食べたほうがいいですよ。他の二つはびっくり箱。開けたら大変ですよ?」
「この穴のあいた計算式に当てはめた数字の中で、一番小さな数字がケーキの箱の番号です。箱の番号は左から、123。さあ、解いてみてください」
リアは、帽子屋のレンに押し付けられた紙を見た。どうやらかけ算の筆算らしい。リアはまた眉を歪める。頭を使うのが苦手なら、当然数学も苦手だ。
だがまあ、やっぱりやるしかないのだからとペンを手に持った。
数式は、こうだ。
25
×□1
―――
25
1□□
――――
12□5
「うわあ……、分かるところからやるしかないよね」
頭を抱えて、ペンを握り締めた。
「まず真ん中の左は2よね。それで、上は……1はダメだから………5か!」
なんだか、一個目が解けたら、後もスラスラ解けてくる。なんだ、私ってやればできたんだ。
「2と5、7と埋めて……うん、できた!一番小さいのは2だから、真ん中の箱ね!」
パンと手を打って、笑顔をうかべると。
「お見事!」
帽子屋のレンとウサギのレンが同時に声を上げると、両端の箱は煙になって消え去る。ウサギのレンが、残った箱をリアにまた押し付ける。
「おめでとうございます!賢いですね、お嬢さん!」
「さあ、ビスケットを食べて、あの山のふもとにあるお城に急いでください!」
「あ、うん。ありがとう!」
お礼を言いつつ白い箱を開けると、中に入っていたのは小さなビスケットだった。漂う甘い香りを楽しむ暇もなく、リアはビスケットを口に詰め込んだ。
乾いた、サクサクとした食感。甘い卵の味が喉に消えたとき、今度は骨が伸びるような感覚におそわれた。
「わ、痛っ……」
成長痛に似た痛みが全身を覆う。それでも、みるみるうちに体は大きくなり、周りの雑草や花が小さくなっていく。
「……あ、戻ったんだ…」
痛みがおさまり、ゆっくり辺りを見渡せば、今まで歩いて来た道が、小さく短い道だったことを知る。なるほど、これだけしか歩けないんだったら、大きくなった方が何倍も効率がいい。
「お城はあっちですよー」
「お気をつけて!」
足元から、小さくなった帽子屋のレンとウサギのレンが声を張り上げる。もう日は山に半分さしかかっている。答える様に手を振って、リアは山のふもとに見えるお城に向けて、足を踏み出した。