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弐 緑の不思議なジュースをどうぞ

 精密に彫られたレリーフから、金の光が漏れる。それは床を照らし、机を照らし、少女の顔も照らした。

「う、ん………はっ」

 パチリと目が開いた。慌てて起き上がり、現状を確認する。

 今リアがいるのは、古びた洋風の部屋だった。光が差す窓、籠ののった机が一つ。埃が溜まった床にリアは寝ていたようだ。右手にはケータイ。部屋にドアは無い。

 どう考えても、明らかにさっきいた海じゃない。じゃあ、本当に異世界に来てしまったんだろうか。

「……あ、チャットに新しいレス来てる」


         〇〇〇


 白兎[無事にこれたよね?よかったよかった]

 白兎[さて、僕の名前やゲームの詳細で気付いたと思うけど、これは"不思議の国のアリス"がモチーフだ]

 白兎[勿論、設定は色々と変えているけどね。で、リアさんはこれから数人の住人とトラップにあう。住人にセオ君の居場所を聞くと良いよ]

 白兎[リミットは、日が沈んで、黄昏じゃなくなったら]

 白兎[質問ある?]


 リリ[何で、こんな事をしたの?あなたは誰なの?]

 白兎[僕は白兎。これは、僕が白兎であるが故の定め。理由なんて無いよ。じゃあ、頑張れ!]


         〇〇〇


 白兎であるが故?何よそれ、全然理由になってない。追求しようと指を動かしかけたその時。

「ひひ、娘さん、今晩は」

「ひっ…!?」

 誰もいないはずの後ろから、甲高い声がした。ばっと振り向くと、赤いしましまパーカーに身を包んだ、知り合い。

「レン…!何でここにいるの!?」

 クラスメートの、お調子者の女子、レンがそこにいた。数少ない友達を見つけたリアは、思わずほっとため息をついて近寄る。だが、

「レン……?私はチェシャ猫だ」

 レンが発したその言葉に歩みを止めた。

「え…?チェシャ猫?」

 チェシャ猫と言えば、アリスに出て来るニヤニヤ笑いを残して消える、あのしましま猫のことだ。ああ、だから赤のしましまパーカーを着ているのか。

 ここは多分、白兎の言いぐさからして、白兎が創った世界だ。元々私を招くつもりだったなら、近い人を役に当てはめた方が面白いとでも思ったのかな。だとしたら、他の住人も近い人がやっているのかも知れない。

 それにしても、レンの普段が普段なだけに、チェシャ猫の役への違和感が無さすぎている。ふざけた色のパーカーも、赤に染めてしまった髪と相まって似合っていて、実にぴったりの役だ。

 閑話休題。チェシャ猫は、ひょこひょこと机に歩み寄ると、籠をトントンと叩いてニヤリと笑った。

「娘さん、弟を探してるんだろ?」

「えっ、な、何で知ってるの!?」

 レンはそれには答えず、ますますニヤつきながら籠を開いた。

「ひひ、部屋から出たいなら、この問題を解きな」

 手招きするレンに、リアは恐る恐る近づいて、籠の中身を覗いた。中は、三個のビンと、紙切れが一つ。どうやら、この紙切れが問題らしかった。


{三個のビンの内、一つが小人の薬。これは、正直者のビン。残りは天の邪鬼なビン。言い分は左から、[真ん中は天の邪鬼、右を飲んで][左は天の邪鬼、私を飲んで][私は飲まないで]。さあ、コルクを抜いてみて}


「論理パズル……?」

「ひひ、解けるかい?」

 ニヤつくレンに、リアは困った顔をした。パズルや頭の使う物は苦手なのだ。

 降参する?でも……。

 こんな所まで来て、引き返すなんて、何か釈然としない。ここは、やれるだけやってみよう。

「この位、何でもないよ」

「ひひ!勇ましい娘さんだ」

 口角を上げて笑うレンを尻目に、ビンを順番通りに取り出して並べると、腕を組んだ。一つ一つ試していくしかないか。

「えーと、まず右は絶対違うでしょ。それから、左は………あ、ダメだ。真ん中の言ってる事とかみ合わない」

「ひひ、鋭いね」

「じゃあ、真ん中……うん、他の言ってる事とかみ合ってるし、これが正解ね!」

 パアッと顔を輝かせたリアに、レンが今までで最大級の笑顔で叫んだ。

「お見事!」

レンがパチンと指を鳴らせば、右と左のビンが消えて、真ん中のビンだけが残る。

「ひひひ!賢い娘さんだ!いいだろう、セオ君のことを教えてあげる。セオ君は、お腹がすいているようだったから、途中のお茶会に行くように言ったよ」

「お茶会?森の?」

 アリスでお茶会と言えば、五月ウサギとうかれ帽子屋が森の中でやっている、あのことだろう。

 これでセオの居場所は分かった。だが、問題の出口が見つからない。

「ねぇ、出口は?」

「ひひ、自分で探しな……」

「あ、ちょっと!」

  呼び止めてもレンは聞かず、ニヤニヤ笑いを残しながら、本物のチェシャ猫のように消えていった。

 現実では有り得ないそれに、少し寒気を覚えながらも、リアはビンを手に取った。

「……きっと、お話通り飲めばいいのね」

 コルクを開けると、キュポンと快い音が響く。緑色のそれを、リアは意を決して飲み干した。苦くは無いし、甘くも無い。無味無臭の液体だった。

 ゴクリと最後まで飲み干した。一瞬の沈黙。続いて、まるで骨が縮む様な感覚が、全身に広がった。

「う、わ……!?」

 手に持ったビンが大きく……いや、こちらが縮んでいるのだと気付いた時には、もはやビンを持てないぐらいに体は縮んでしまった。ビンが床に落ちて、音を立てる。

「わあ……すごい」

 あっという間にビンの幅ぐらいの高さに縮んでしまった。体だけじゃなく、服まで縮んでいるのだからますます不思議だ。

 だが、感心している時間は無い。黄昏の時間なんてあっという間なのだから。

「あ、ドア!」

 大きかった時には気づかなかった、小さなドアが目の前にあった。

 ノブに手をかけると、ドアはひとりでに開いていく。広がるのは、色鮮やかな植物の景色。

「……よし」

 声に出して気合いを入れて、リアは鬱葱と茂る草むらに足を踏み出した。

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