キレる探偵
2012/07/31 小説のタイトルを変えました。カタカナより漢字の方がいい気がしたので。
あと、ちょこっとだけ書き直しました。頭を叩くところと希がキレた所です。
希は黒スーツの男を連れて、近くのファミレスに徒歩でやって来る。事務所の件もあって多少自棄になっていたが、見知らぬ男と狭い車内で一緒になる状況はさすがに回避した。男も特に文句は無い様で、「話が出来るならどこでもいい」と素直に付いて来ていた。
「いらっしゃいませ~」
店内に入ると、すぐにウェイトレスがやって来る。
「御一人様ですか?」
「え?」
振り返ると、男は入口に貼ってあるポスターを眺めていた。真剣に見つめる様子に呆れつつ、ウェイトレスの方へ向き直る。
「すみません、2名で」
「? あ、はい。ではこちらです」
変な間を感じたが、気にせず男に「こっちこっち」と合図を送ると、男も後ろに付いて来る。案内されたテーブル席に向い合せで座る。椅子にドカッと座った男は珍しそうに店内をキョロキョロとしている。
「いやぁ、こういう店があるのは知ってたけど、こんな感じか。こんなガヤガヤうるせぇ所でよく飯食えるな」
「たしかに家族連れや学生が多いですから騒がしいですけど。来るの初めてなんですか?」
「おう。前に来た時は、何処にもなかったからな」
「?」
希が首を傾げていると、ウェイターが注文を取りにやって来る。中年の男で他の店員と帽子の色が違うのでチーフか何かかと希は思った。
「ご注文はお決まりですか?」
「えっと……ホットコーヒーで。…あの、決まりました?」
希はじっとウェイターを見ている男に話しかける。
「ああ、オレはいらない」
「あ、そうですか。じゃあホットコーヒー1つで」
希がウェイターを見ると、怪訝な顔で向かい合う席を交互に見ている。
「あの~…」
「え? あ! はい、ホットコーヒー1つですね! 少々お待ちください」
ウェイターが慌てて戻って行く。そして奥の方で他の店員と、こちらを見ながらコソコソと何か話しているのが見える。
「何なのアレ…」
不愉快だなと思っていると、向かいで座る男が「クックック」と笑っている。ムッとした希は本題に入る。
「それで、話ってなんですか? あのお化けの事も知ってるみたいですけど」
「ああ、そうだった。まずは自己紹介だ。オレの名前は阿門。人間が言う所の悪魔ってやつだな」
「は?」
「いや、だからオレは阿門。悪魔だよ、ア・ク・マ」
「ふ、ふざけないで下さい!」
頭に来て声を荒げる希。周りの客の視線に気付き、顔が俯き気味になる。そんな希に苦笑しながら阿門はトドメの一言を放つ。
「ふざけてねぇよ。現にアンタ以外オレの事見えてないぜ?」
「……え?」
俯いていた希の顔がパッと上がる。丁度そのタイミングで先程のウェイターがコーヒーを持ってきた。
「お待たせしました。ホットコーヒーでございます」
「よし! それじゃ証拠を見せてやるよ」
ウェイターがコーヒーと伝票を置くと同時に、阿門は立ち上がりウェイターの真横に立つ。阿門がウェイターの目の前で手を振っても見えてる様子はない。そして阿門は右手を振り上げた。その顔は、今まさにイタズラをする子供の様にニヤニヤしている。
「ちょ、ちょっと!」
パァン!
ウェイターの頭を叩く音が辺りに響く。周囲の客も何事かとウェイターの方を見る。
パサッ
直後ウェイターがかぶっていた帽子が床に落ちた。ウェイターは叩かれた部分を手で押さえ、キョロキョロと周りを見るが、誰もいない事に首を傾げる。そんなウェイターを余所に静寂がファミレスを包み込む。
「ママーあのおじさん、かみのけおとしたよー」
「コラッ! 見ちゃダメ!」
その会話にハッと自分の状況に気が付いたウェイターは、床に落ちた帽子+αを慌てて拾い上げ、奥へと走って行った。そして静寂が続く中、阿門の笑い声だけが響き渡る。
「ギャハハハハハハハハハハハハ! やっぱそうだった! じゃねぇかなぁと思ったんだよ! ギャハハハ!」
腹を抱えて転げまわる阿門。希は引き攣った笑顔のままゆっくりと席を立ち、伝票を持ってレジへ向かって行った。
「おい! 待てって!」
いつの間にか外に出て行った希を、慌てて追ってきた阿門。呼び止める声を無視して希はスタスタと歩いて行く。
「いや、ふざけたのは悪かったけどよ。アンタには別に何もしてないだろ?」
阿門がそう言った瞬間、希の足はピタリと止まる。阿門はホッとするが、希の肩が小刻みに震えているのが解かる。そしてゆっくりと振り返る希の顔を見て、自称悪魔の阿門はちょっと引く。いわゆるキレてる顔だった。
「あ~、あの…」
「何もしてない!? ええ! 何もしてないでしょうよ! 周りの人に見えてないって先に言ってくれなかったおかげでファミレスで私完全に頭おかしい人って思われたわよ! もうあのファミレス行けないじゃない! ホラ! こうやってアナタを怒鳴ったって他の人には私が一人でわめき散らかしてるだけでしょ!?」
希は通りすがりの人を指差す。指を指された人は慌てて逃げて行った。
「いや、でも……」
「でも!? でもっって何!? っていうか何? 悪魔って!? こっちは貯めてたお金ほとんど使って手に入れた家がお化けの棲家で困り果ててんのよ! いきなり話しかけてきて、チンピラかと思ったら悪魔って何よ! 悪魔って!!」
希は怒鳴るだけ怒鳴ると、その場にしゃがみ込んでしまった。
「もうやだ……」
蹲って動こうとしない希を、困り果てた表情で見つめる阿門。溜息を一つ吐いてしゃがみこむ。
「分かった。じゃあとりあえず、アンタの家の悩みを解決してやるから。その後、オレの話を聞いてくれ」
「え?」
希はパッと顔を上げる。それを見てニヤリとする阿門。
「OKって事でいいな? それじゃ、まずは情報収集だ。アンタ探偵なんだろ?」
阿門は希を立たせて、事務所へ歩き出した。
書きたくなったのでプロット無しで勢いで書いてみました。あとで困る事になりそう。
キレた女性って怖いですよね。たぶん悪魔と同等かそれ以上に怖いでしょう。