霊の棲む家
ゾッとするような表現力が欲しい。
2012/07/31 ホラーなシーンの行間をちょっと空けてみました。試行錯誤中です。すみません。
その日、念願の事務所を手に入れ希は住んでいたアパートを引き払い、先程引っ越しを済ませていた。そして一段落してリビングで寛ぐ。リビングは事務所も兼ねているのでそれなりの家具を揃えたかったが、安物のテーブルとイスを用意するのが精一杯だった。
「まぁ、最初はここからよね。あとは……」
希は持ってきた荷物の中からA4サイズのプレートを取り出す。そこには"羽代探偵事務所"と書かれていた。そのプレートを見てニヤ~っとにやける。そしてスキップしながら玄関へと向かって行った。門塀の表札を付ける部分にそのプレートを取り付け、1歩離れて「ウンウン」と頷く。
「いいじゃない。今日から羽代探偵事務所のスタートだわ」
やる気に見て溢れていると、ふと視線を感じた。振り返ると少し離れた所に、前に見かけた黒いスーツの男が立っていた。男はどんどんこちらに近づいてくる。
(うわ~~~こっちに来てる~~~!)
内心かなり慌てていたが、逃げてるように見せると逆に危ないと思い、引き攣った笑顔で軽く会釈をする。すると男はものすごく驚いた表情をして立ち止まった。
(今だ!)
希は早歩きで家へと戻って行く。後ろから「お、おい!」と聞こえた気がしたが、「聞こえてない、気のせい、空耳、幻聴」と言い聞かせ玄関へ入り、素早く鍵を掛ける。そしてドアスコープから覗くと男は怒りの表情を浮かべ歩いて行った。
「怖かった…。表札見て前の住人と無関係って気付いてくれないかなぁ」
気を落ち着かせ、再び荷解きを始める。夕食を簡単に済ませ、引っ越しなどで疲れていたのでその日は早めに寝ることにした。
ゴンッ―――ゴンッ―――
2階の階段に近い部屋で寝ていた希は何かがぶつかる様な音で目を覚ました。
「ん……。何の音?」
ゴンッ―――ゴンッ―――
寝ぼけた頭を無理やり起こし、耳を澄ませるとやはり聞こえた。
「……な、なに? 泥棒?」
希は慌ててベッドから起きて、部屋のドアをゆっくりと開けて外を伺う。薄暗い2階の廊下に人の気配はしなかった。だが何かがぶつかる音はハッキリと聞こえてくる。そして薄らと声も聞こえる。
「…ろ…やめ………き……」
「…下?」
希は部屋から出て階段の下を覗き込むと、男がしゃがみこんでいた。男の首は歪に曲がっており、頭を両手で抱えて床にぶつけている。
「きえろやめろだまれやめろだまれきえろきえろきえろきえろ」
そう呟きながらひたすら頭を床にぶつけている。
「ひっ…!」
希はその場で尻餅をついてしまう。頭が真っ白になってしまった希だが、視界の端に何かがいるような気がした。そして思わずそちらの方を見た事をすぐに後悔することになる。
廊下の奥には女が立っていた。顔は真っ青で、喉元は何度も刃物で刺された様にパックリと開き、そこから血が溢れている。胸にも刺された跡がいくつもあった。そして床をジッと睨みつけ、血の垂れた口は何かをぶつぶつ呟いている。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!」
希は絶叫して部屋に戻る。ドアに鍵を掛けてベッド潜り込む。
「……夢よ、夢だわ……絶対そうよ……」
涙目になった目を瞑り、耳を塞ぎ、ずっと自分に言い聞かせていた。
結局希は、その後一睡も出来ず朝を迎えた。目にクマを作り、重い体を起こしてカーテンを開く。そして手元の貴重品を手に取ると、外を伺うようにドアを開いた。廊下に昨日の女はいなかった。ゆっくりドアを開け、階段の下を覗くと男も消えていた。
「い、居なくなってる……」
少しほっとした希は一気に階段を駆け下り、玄関を出て(一応鍵はかけて)不動産屋に車を走らせる。
「どういう事ですか!?」
「ど、どうしました?」
掴み掛ってきそうな勢いにたじろぐ不動産屋。
「で、出たんですよ! お化けが!」
一瞬「やっぱり」と言う表情をした不動産屋だったが、すぐににこやかな顔に戻る。
「そんなお化けだなんて。そんなこと言われても困りますよ」
「でも実際に出たんですよ! 私見たんですもの!」
「羽代さん、疲れていたんじゃないですか? 事務所を経営すると言われてましたし色々ストレスが溜まって、そう言う夢を見たんですよ」
「夢なんかじゃないです! なんで曰く付きって契約の時に言ってくれなかったんですか!」
「いえ、私はちゃんと言いましたよ。前に住んでいたご夫婦に色々問題はあったと。たしかに深く追求はされなかったので詳細は言ってないですが、建物自体に問題は無い事は確かですよ」
「お化けが出るって分かってたら契約なんてしません!」
「……じゃあ証明できますか?」
「え?」
「お化けが出るというのなら証明してもらわないと。ただ見たと言われても、それではただの言いがかりと言うものですよ」
「そんな……」
結局取りつく島は無く、事務所に戻る希。駐車場に車を止めるが、家に入る気にはなれなかった。
「どうしよう。この家売ろうにも買ってくれる人なんていないだろうし…。お金も無いし…。せっかく独立したのにこんなのって……。お母さんにも言えるわけないよ……」
考えれば考えるほど、悲しく、悔しく涙が零れる。運転席で蹲っていると、窓をドンドンと叩く音がした。涙を拭いて外を見ると、あの黒いスーツの男が立っていた。今まで怖がっていた希だったが、少し自暴自棄になって窓を開ける。涙目で男を睨み、そして語尾を強める。
「何か用なんですか!?」
すると男は窓に顔を近づけた。希は少し後ろに身を引くが、男は構わずに質問をする。
「アンタ、家の中で見ちゃっただろ?」
男の言葉に希は目を見開く。その表情を見た男はニヤリと嬉しそうな表情を浮かべた。
ドアの覗き穴をドアスコープと言う事を書いてる時に調べて初めて知りました。