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慌てて電車を降りた。
彼女は、まだ言葉を発し続けていたから。
下りの電車が発車する。
女子高生が、ゆらゆらと、電車の進行方向へと、追いかけるように歩いていく。
俺は様子を見ながら後退してホームの壁に寄りかかる。
「大丈夫、あたしは、きっと」
大丈夫じゃない。
そんな泣き腫らした顔で。
「キラい」
「大っ嫌い」
「嘘つき」
「浮気者」
「キラい」
声を殺して、現実に戻り切れなくて。
ここはもうあんたの世界じゃないのに。
カンカンカン…
「2番線に電車が到着します。危ないですから…」
アナウンスと共に、彼女が立ち上がる。
「明日、あたしがいなくなってたらどうする?」
掠れた声が聞こえた気がした。
俺がいなくなったあの日、彼女がいなくなったあの日。
俺が見たものが、彼女の見た光景になるならどんなに楽だったか。
こんな現実が、まだマシかもしれない。
黄色い電車が、見えてくる。
女子高生はその電車をぼんやり見つめている。
ドサッ
カバンをホームに置く。というよりは、落とす。
「あたしは、本当のあたし、好きになってくれる人がいい」
ゆらゆら。
どうして、わがままなんだろう。
昔も今も。
自分を認められないまま。
果てなんて見つけられないまま。
女子高生と目が合う。
咄嗟に、苦い気持ちが溢れる。
「ごめんね」
俺には、こう償うしかなかった。
現実に引き込まれるようにして、俺はまた虚構へ飛び乗る。
飛んでいく。
彼女の虚構が止まりますように。
俺の見る光景が、キミの見る光景になりますように。