目覚め
暗闇の中、身体中が痛む。
その痛みで意識がある事を認識する。
目を開けると一面に映ったのは・・・黒。
「・・・竜馬・・・」
真っ暗闇と俺しか存在しない世界・・・この暗闇しか無い世界で誰かが俺を呼んでいる・・・?
微かにしか聞こえないので場所が分からない。
「・・・夏目・・・竜馬・・・」
俺を呼ぶ声が少し強くなった・・・近いのか?
誰だ、どこにいる・・・?
周りを見渡しても闇しかない。
「・・・夏目 竜馬よ・・・!!」
今度ははっきり聞こえた。
それと同時に、温かい光の様なモノも感じた。
「俺を呼ぶ声、それにこの感じは・・・上か!?」
そう思うと同時に一気に上を見上げる。
そして、俺は目に映ったモノに見とれてしまった。
何故なら、俺の目に映ったモノは・・・心を奪われるほど神秘的に輝く、蒼い鱗を纏った『竜』だったのだから。
「・・・お前は・・・誰だ・・・?」
本能的にそう話しかけていた。
竜をお前と言うのは妙な感じだが、そう呼ぶのが良いと思ったからだ。
「我が名は『炎青』、『東青幻獣王炎青』なり。こうして対話出来る時を待ちわびたぞ、夏目 竜馬・・・否、新たなる『青竜王』候補よ」
炎青と名乗る竜は貫録のある声で意味の分からない事を言い放った。
東青幻獣王?俺が新たな青竜王?どういうことかさっぱり分からん。
「ちょっと待て、言ってる意味がさっぱり分からねえぞ。それに、俺が新たなる青竜王ってどういうことなんだ?」
とりあえず、目の前にいる竜に説明を求める事にした。
今の現状ではこれしかない。
「我は東の地を守護せし王だが、この世には存在せぬ・・・そして汝は我の分身となる資格を持ち、我の力を具現化させられる確率を持つ存在、即ち、青竜王候補であり、この世での我となりえる者だ・・・」
・・・さっぱり分からんぞ。
「・・・簡単に言うと、何なんだ?」
俺は一応簡単な風に言ってほしいと聞いていはいるが・・・今の炎青の言葉で大体の事は予想出来ていた。
何故なら、今の様な説明を授業で聞いた事があったからだ。
稀に現れる、神話に出てくる幻獣の力を扱う事が出来るメモリーズ・・・
「ふむ、この世では呼び方が違うのだったな・・・この世ではたしか・・・『神力記憶者』と呼ばれていたはずだ」
ゴッドメモリーズ・・・世界では存在すらもハッキリしていない、伝説の中の存在とされている。
俺の記憶が正しければ、現在では11人が該当し、世界が躍起になってそのゴッドメモリーズを自分の国のモノにしようとしているらしい。
理由は言わずもがな、戦争の為だろうけど。
彼等は共通して、共通の要因で神話上の獣と出会う事で身に付けたと言っている。
その共通の要因とは・・・死だ。
彼等は一度死んだと、揃えて口にしたらしい。
そして、俺の今の状況は・・・多分だが死んでる。
つまりは、他の11人の言っていた状況と一緒な訳だ。
だが・・・何故俺が?
何の取り柄も無いランク0、それが俺だ。
「不思議そうだな・・・無理は無いがな」
俺が考え込んでいると、それを見抜いたらしい炎青が声をかけてきた。
「何故自分なのか、その理由は何れ分かる。それに・・・今の汝にとって大切なのは、何故自分なのかという理由ではあるまい?」
俺は炎青に言われて黙り込んでしまった。
そうだ、俺は金髪の男に負けて・・・千登瀬を守れなかったんだ・・・俺に力が無いばかりに。
「一度の敗北・・・その程度で挫かれるほど、汝の心は弱くはあるまい?強き心を持たねば、我と対話する事など、不可能なのだからな」
炎青は俺を励ますかの様な言葉を口にした。
まるで、まだ何か希望があるかの様に。
「さぁ、選ぶがよい、強き心を持つ者よ!!我が分身となりて新たな王となるか、このまま朽ちて冥府へ帰すかを!!」
「俺は・・・」
・・・言おうとして言葉が詰まる。
俺なんかがそんな力を手に入れる資格があるのか・・・何もしてこなかった俺が・・・。
炎青はまたも俺の考えを悟ったかの様に言葉を紡いだ・・・それは・・・能力が無く、堕落していた俺を・・・希望を持っていた頃まで立ち直らしてくれる程の力強い言葉だった。
「『やれる事から逃げるな、やりたい事は最後までやり遂げろ、無理なら・・・俺が力を貸してやるから』・・・過去にそう言ったのは、誰だ・・・?」
「その言葉は・・・俺が小学校で千登瀬と月詠に言った言葉・・・これまでの俺達をずっと繋いで来た言葉だ・・・」
あの時はまだ未来に希望を抱てた・・・あの時の俺なら力を得る資格があったかもしれない。
だけど・・・
「けど、今の俺には・・・力を得る資格も無ければ、昔の様な覚悟も・・・」
そう言おうとした時、不意に目の前に巨大な丸い鏡の様なものが現れ、そこに・・・雨の中、血だらけになりながら俺を運ぶ月詠の姿が映し出された。
月詠の事だ、俺がやられた瞬間、即座に俺を連れて逃げ出したはずだ。
月詠の状況判断の速さと的確さは学園の先生にも一目置かれる程高いからだ。
傷だらけなのは多分、金髪の男の追撃に合ったからだろう。
そして何よりも驚いたのは、月詠の身体はボロボロになっているのに対し、俺の身体には金髪の男にやられた傷以外、新しい傷は付いていない事だった。
俺はこの惨状に、言葉を発せないでいた。
「この映像は一昨日の出来事だ」
「一昨日だと!?じゃあっ、今はどうなってるんだ!?千登瀬は!?月詠は!?」
一昨日の事と聞いて俺はどうしもなく焦りを覚えた。
あの金髪の男の目的は知らないが、嫌な予感がしてしょうがないからだ。
「案ずるな、汝の友人は二人とも無事だ。だが、少女に関しては早急に手を打たねば、どうなるか分かった物ではないだろうな」
「とりあえず、今は無事なんだな!?」
俺はどうすればいいのか、頭の中で整理する。
それを考えてる内に・・・俺の中で何かが吹っ切れた様な気がした。
そして、一つの結論に達した。
「なぁ、炎青・・・」
「何だ?」
「俺に力をくれるって言う、お前の目的は何なんだ?」
「吹っ切れたかと思えば、まだ不安か?」
炎青はさっきまでの厳格な雰囲気とは違った優しそうな声で愉快そうに笑い、俺の質問に応えてくれた。
「安心しろ・・・他の幻獣の理由は知らないが、少なくとも我は私欲の為に力を与えるわけでは無い。我は力を与える過程で明日への道しるべを示しているにすぎないのだ。・・・我は歴代の青竜王達にはそうして接してきたのだからな」
「それを聞いて安心したぜ・・・」
裏が無いなら俺のとる行動は一つだろう。
「炎青、その力を貰うぞ!!」
「承知した。我は新たな青竜王の誕生を心から祝福しよう」
炎青がそう言うと、蒼く輝く玉が俺の前に現れた。
「受け取るがいい・・・その宝玉こそが我が力の塊、その宝玉を手にした時から、汝は正式に青竜王と力を得る」
炎青に諭され、俺はその宝玉を手に取った。
その瞬間、宝玉は一層輝きを増し、俺の意識を蒼い光によって包み込んだ。
「月詠、お前の頑張りのお陰で目が覚めたぜ!!千登瀬、待ってろよ・・・必ず助け出してやるからな!!」
新たな決意を胸に刻むと、俺は炎青に向き直った。
「炎青、お前の事はよく知らねぇが・・・ありがとうな、俺を立ち直らしてくれて」
「気にする事は無い。我はいつでも汝を見守っているのだからな。・・・我が道を行くがいい、新たなる青竜王よ」
俺からの礼を聞き、最後に俺に激励を残して炎青の姿が消えて行った。
「さぁ、何だろうと・・・やってやろうじゃねぇか!!」
誤字、脱字があれば教えてください。
すぐに修正します。
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