25日目
「……待つわ」
……三度目の方。
私がここにきて、最初にここに来られた方。
その時も、その次も、願った人は来なかった。
「お相手は、ご存命なのですか?」
『知らん。死んでいるなら確かに会えない。だが、それは、こいつにもおまえにも、もっといえば、俺にも分からないことだ。管轄外だからな』
「……その可能性も伝えないんですか?」
『伝える義理はない』
そんな会話を二度目の対面が出来なかったときに話をした。
「……こんにちは。お相手は前と変わりませんか?」
私は雑談とは言わないだろう程度で声をかけている。
答えは変わらず。
「ええ。前の方です」
笑うことも怪訝そうな顔をするわけでもなく。
私の存在もここのことも、どうでもいいのか、慣れているのか。
……不思議な人。
綺麗な女性だと思う。
色白で、華奢で。
儚げで。
生気のない人。
死者だからそれはおかしくないのだけれど。
この人の目にはここは、どううつっているのだろうか。
『あれにあまりかまうな』
三度目の訪問に、牡丹様に言われた。
……厳しい口調だった。
「どういう……」
『おまえのようなやつは、引っ張られる。おまえはどちらでもないからな』
牡丹様は明言をされずに、濁される。
読解力も、理解力も、相続力も乏しい私には、分からないことだらけ。
引っ張られる……。
「牡丹様」
『なんだ』
「教えてください。あの人が誰に会いたいのか。どうして会いたいのか」
『……聞いてどうする』
「どうもしません。知りたいなって思ったんです。私には無いものを持っておられるし、きっと見えてる景色も違うだろうから」
『……あれは、自分を殺した相手に会いたがってる』
……え……。
『会ってどうしたいかは知らん。それは本人しか知らんことだ。聞こうと』
「その人にはどうして会いたいんですか?」
『おま!』
「……聞いてどうするの?」
「私はここにきて、知ったことなんですけど、人って言葉を口にしないと伝わらなくて、ってかそもそもそうなんですけど、もっといえば、言葉にすることも難しいから、伝えるのも難しくて。で、まずは、なんでもいいから、感情のまま、口にするのもいいのかなって。だから知りたいっていうか、あなたが言葉にして、整理して、会ったときに、伝えやすいのかなって」
「……」
「ひとりごとみたいに呟くのもいいかもしれませんね。それなら、私は聞こえないところにいますから」
「……話すって聞いてもらうためにすることじゃないの?」
「聞いてもらうための準備で口にするのも、話すことだと思います」
私を見る目は虚ろのまま。
「私ね。殺されたの。私を殺したのは私のお父さん。お父さんは罪を償うために、裁判を受けたんだと思う。判決は知らないけど、向こう側にいるなら、まだ会えないんだと思う。そこまで、鳥居は現れないでしょ? それを確かめたいの。どこにいるのか。こっちにいるなら、きっと鳥居をくぐって、会いに来る。それがないから、まだ向こうにいる。ここにきて、それを確かめてる。私はお父さんの様子を見られないから」
思っていたよりも若くて、幼い口調。
「会って、ありがとうって言うんだ。私のお父さんになってくれたこと。お父さんがいなかったら、私はいないもの」
……怖い。
話していくにつれて、表情は明るくなって、笑って、楽しそうに。
……本心なの?
わからない。
分からなくて当たり前だけれど、わからない。
『だからいっただろ』
「……牡丹様……」
『あれはもうだめだ。戻れない。……ここにいる間で、おまえの印象は変わっていっただろ? それだけ、あいつは動くんだ。変わるってことはいいこと、っていう面もあるが、あれはダメだ。自分がない。それはダメなことだ』
牡丹様の言葉が苦しい。
……ここに来る人は、強い思いがあってここに来る。
それが、いわゆる「いいもの」か「わるいもの」かの判断は、私にはできないし、しちゃいけないと思っている。
『今回も会わずに終わったな』
何事もなく、3日が終わった。
特に、喜ぶわけでも悲しむわけでもなく、ただ帰っていった。
「牡丹様……」
『どうした?』
「あの人にはここはどう見えていたんでしょうか」
『知らん。わからん。……が、少なくとも、おまえが見ている景色とは違うだろうな』




