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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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本物の火

【人間国 王城 回廊】※エリオス視点


 評議室を出た後、足音が聞こえた。

 振り返ると、老将が歩いてきた。

 ゆっくりとした足取りだ。急いでいない。

 だが、確実にこちらに向かっている。


「少し、いいか」

 老将が、静かに言った。

「はい」

 二人で、回廊を歩いた。誰もいない。

 老将が、外の景色を見ながら歩いている。

 しばらく、何も言わなかった。

 エリオスも、黙っていた。


 やがて、老将が口を開いた。

「オルドスという。改めて名乗っておこう」

 エリオスは、少し驚いた。

 評議室では、肩書きしか呼ばれていなかった。

「エリオスです」

「知っている」

 オルドスが、また前を向いた。

「建国地に、行ったのだな」

「はい」

「どうだった」

 エリオスは、少し考えた。

「普通でした」

「普通か」

「普通の、生活がありました」

 オルドスが、頷いた。


「そうだろう」

 エリオスは、オルドスを見た。

「……知っていたのですか」

「知っていた、とは少し違う」

 オルドスが、立ち止まった。

 窓の外を見る。

 遠くに、城下町が見える。

「儂も、若い頃に似たようなことをした」

「似たようなこと、とは」

「敵の陣地に、一人で入ったことがある」

 エリオスは、驚いた。


「戦の前だった。敵がどんな場所で、どんな人間がいるかを見たかった」

「……見て、どうでしたか」

「普通だった」

 オルドスが、静かに言った。

「敵の兵士が、飯を食っていた。笑っていた。喧嘩していた。儂らと、同じだった」

 エリオスは、黙っていた。

「それでも、戦った」

「……はい」

「戦わなければならない理由が、あったからだ。だが、斬った後に残るものがある」

 オルドスが、また歩き始めた。


「建国地の話をしよう」

 エリオスは、隣を歩きながら聞いた。

「儂は、あの場所を一度見ている。遠くからだが」

「どう見えましたか」

「火が、あった。夜に、小さな火が点っていた。生きている場所の火だ。戦場の火とは、違う」

「……はい」

「儂は、長く戦場にいる。生きている場所の火と、死にかけている場所の火の違いは、遠くからでも分かる」

 エリオスは、建国地の灯りを思い出した。

 朝の光の中で、煙が上がっていた。

 普通の、朝の火だった。


「あの国は、まだ小さい」

 オルドスが、続けた。

「物資も少ない。兵力も少ない。どこから見ても、弱い国だ」

「はい」

「だが……あの国には、理由がある」

「理由、ですか」

「存在する理由だ。魔族も人間も、闇属性も光属性も、居場所がある。その理由が、あの火を燃やしている」

 エリオスは、黙って聞いていた。


「儂が若い頃、闇属性の子を処刑したことがある」

 オルドスの声が、少し低くなった。

「命令だった。だから、やった。だが、今でも覚えている」

「……名前を、ですか」

「顔を。泣いていなかった。諦めていた」

 エリオスは、ルシエルの顔を思い出した。

 泣いていなかった。諦めていなかった。

 違う。


「お前が評議室で言ったこと」

 オルドスが、エリオスを見た。

「秩序は、誰のためにあるのか。あれは、正しい問いだ」

「ですが、答えは出ませんでした」

「そうだな」


 オルドスが、また前を向いた。

「答えは、儂にも出ない。長く生きてきたが、出なかった」

「では、どうすれば」

「問い続けることだ。答えが出なくても、問いを持っている人間は、むやみに剣を振らない。それだけで、違う」

 エリオスは、その言葉を、頭の中で繰り返した。


「大司教殿は、怒っているだろう」

 オルドスが、少し表情を緩めた。

「覚悟しておけ」

「はい」

「だが、お前の問いは正しかった。評議室に、残った」

 しばらく、沈黙があった。


 オルドスが、また歩き始めようとして、止まった。

「一つだけ、言っておく」

「はい」

「儂には、もう長い時間はない」

 エリオスは、オルドスを見た。

 老将の顔は、穏やかだった。隠していない。

 ただ、事実として言っている。

「身体か、それとも……」

「両方だ」

 オルドスが、静かに言った。

「身体も、限界が近い。立場も、そう長くは保てないかもしれない」

「……大司教殿のせいで、ですか」

「儂が長くいすぎた、ということだ。若い者に道を譲る時が来ている」

 エリオスは、何も言えなかった。

「だが、まだここにいる間は使え」

 オルドスが、エリオスを見た。

「何かあれば、儂を頼れ。評議室では言えないことも、ここでなら聞ける」

「……なぜ、そこまで」

「お前の問いが、正しかったからだ」

 オルドスが、また歩き始めた。

「正しい問いを持つ人間を、儂は見捨てない。それだけだ」

 足音が、遠ざかっていく。

 ゆっくりとした、確実な足音だ。



 エリオスは、しばらくその場に立っていた。

 窓の外の城下町が、見える。

 どこかに、闇属性の子がいるかもしれない。

 隠れて、生きているかもしれない。


(……俺は、何のために剣を持っているのか)

 問いは、まだ答えが出ない。だが、オルドスの言葉が残っていた。


 「問い続けることだ」


 それだけで、違う。

 エリオスは、また歩き始めた。剣が、腰で揺れた。

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