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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

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7/16

光は、闇の中でこそ意味を持つ

 その少女の噂は、魔王城の正式な記録には残っていなかった。


 「光を宿した魔族の子がいる」

 「触れれば災いを呼ぶ」

 「既に処分されたはずだ」


 どれも曖昧で、どれも都合がいい。

(……都合よく消された、か)


 アルト・ノクティスは、地図の端にある印を見つめていた。

 魔物国南部。交易路から外れた、半ば捨てられた集落。

 人材が流れ着く場所だ。


ーーーーーーーーーーーー

 その集落は、静かだった。


 活気ではなく、諦めが漂っている。


 アルトは、護衛も連れず、ただの王族服で歩いた。

 ――そして、見つけた。


 崩れかけた倉庫の影。木箱に腰掛け、本を読んでいる少女。

 年は、十歳ほど。


 魔族にしては淡い髪色。角は小さく、目立たない。


 だが――


(……隠しきれてないな)


 彼女の周囲だけ、空気が“澄んで”いた。


「それ、面白いか?」

 声をかけると、少女は驚いた様子で顔を上げた。


「……本、好きですか?」

 質問で返してくる。


(警戒心はあるが、怯えてはいない)


「嫌いじゃない」


「じゃあ……変な人ですね」

 少女は、小さく笑った。


「ここでは、本を読む人、だいたい悪い人か、

 もう何も失うものがない人です」

(なるほど……環境が、そうさせたか)


「名前は?」


「……呼ばれたこと、ありません」


 一瞬の沈黙。

 アルトは、表情を変えなかった。


「じゃあ、俺が名づける。ルシエルはどうだ?」


 少女は、目を瞬かせた。


「……光、の名前ですね」


「嫌か?」


「いいえ」


 少し考えてから、言う。


「初めて、“誰かにもらった名前”ですから」

 しばらく、並んで座る。


 少女――ルシエルは、ぽつりと言った。


「私は……いらないんです。ここにいても、国にいても。

 光は、魔族には不要だから」


 それは怒りではなく、事実として受け入れた声だった。


(……一番、厄介なやつだ)


「なあ、ルシエル」

 アルトは、地面に石を並べた。


「国って、何だと思う?」

 少女は首を傾げる。


「……強い人が、弱い人を守る場所?」


「惜しい」

 アルトは、石を少しずらす。


「国は、“間違って生まれた人間を、消さなくていい仕組み”だ」


 ルシエルの目が、揺れた。


「光があるから、闇が分かる。

 闇があるから、光が眩しい。

 どちらかだけの世界は、必ず歪む」


 アルトは、はっきりと言う。


「だから俺は、どちらも残す国を作る」

 ルシエルは、しばらく黙っていた。


 やがて、小さく問いかける。


「……それって

 私が、生きてていい国ですか?」


 アルトは、迷わなかった。


「お前が生きてることを前提に作る国だ」


 少女の目から、音もなく涙が落ちた。

 嗚咽はない。泣き声もない。


 ただ――

 長い間、押し殺してきたものが、溢れただけ。


「……王子様」


「うん?」


「私、あなたの国で、何をすればいいですか?」

 アルトは、初めて少し考えた。


「間違ってることを、間違ってると言え。

 それが、一番難しくて、一番必要な役割だ」


 こうして光属性の少女は、

 王の軍でも、魔導士でもなく

 理念として、迎え入れられた。


 後に人々は言う。


 千年王国が千年続いた理由は、

 強さでも、魔法でもない。


 最初に、

 「消されるはずだった光」を、

 王が拾ったからだと。

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