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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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三日間の記録

【建国地 市場〜各所】※ 工作員視点

 名前は、カルと名乗っている。本名ではない。

 仕事の間は、いつも別の名前を使う。

 

 商人として建国地に入って、三日が経った。

 ルクレシア王女殿下の命令は、シンプルだった。

 建国地の内部を見てこい。人の数、物資の量、建物の配置、住民の様子。

 全部、記録して帰れ。


 カルは、布を売りながら、目だけ動かしていた。

(……思ったより、普通だ)

 これが、最初の印象だった。

 魔族と人間が混在している異端の国。そう聞いていた。

 だが、市場を歩く人間たちは、普通に話している。

 魔族の老人が、人間の子供に飴を渡している。

 人間の女が、魔族の男と値段交渉をしている。

 怒鳴り合いではない。笑いながら、交渉している。


(……演技か)

 カルは、そう思うことにした。

 こちらが来ていることを知っていて、見せているのかもしれない。

 だが、三日間観察して、演技に見えない部分が多すぎた。

 子供たちが、走り回っている。

 魔族の子と人間の子が、一緒に走っている。子供は、演技をしない。


(……記録しておこう)

 カルは、頭の中にメモを作った。

 市場の規模。小さい。だが、活気がある。

 物資の量。まだ少ない。自給はできていない。

 建物の配置。中央に広場。周囲に住居と作業場。

 

 防衛設備。見えない。だが、あの三将がいる。

 そこだけは、慎重に記録した。

 土属性の大男。火属性の細身の男。水属性の女。

 三人の顔と特徴を、頭に刻む。

 

 その日の夕方。

 広場で、食事が始まった。全員で食べる、らしい。

 カルも、端の方に混ぜてもらった。断る理由がなかった。

 隣に、小さな魔族の少女が座った。


「商人さん、今日は何を売っていましたか」

「布だ」

「売れましたか」

「まあまあだ」

 少女が、頷いた。

「ここは布が少ないので、助かります」

 カルは、少女を見た。光属性だ、と気づいた。

 目が、少し光を帯びている。

(……忌み子か)

 魔物国では、この目の子は消される。

 だが、この子は普通に座って、普通に話している。

 怯えていない。隠していない。


「名前は」

「ルシエルです」

 カルは、その名前を頭に刻んだ。

 光属性の忌み子が、建国地で普通に生きている。それも、記録だ。

 食事が終わった。カルは、宿に戻りながら、今日見たものを整理した。


(弱い国だ)

 物資が少ない。自給できていない。

 封鎖すれば、確かに効く。

 

 だが──なぜ、弱く見えないのか


 数字の上では、弱いはずだ。

 だが、この三日間、弱さを感じなかった。

 人が、生きているからかもしれない。

 怯えていない。諦めていない。

 ただ、生きている。


(……感傷だ)

 カルは、その考えを頭から追い出した。

 仕事は、記録することだ。見たものを、そのまま持ち帰る。

 判断するのは、ルクレシア王女殿下だ。

 だが、宿の天井を見ながら、カルはしばらく眠れなかった。

 ルシエルという少女の目が、頭から離れなかった。

 怯えていない目だ。隠していない目だ。

 ただ、そこにいる目だ。


(……忌み子が、あんな目をするのか)

 カルには、答えが出なかった。

 明日、もう一日だけ観察して、帰る予定だ。

 持ち帰るものは、全部記録した。

 

(……本当に、全部か)

 カルは、目を閉じた。

 答えは、出なかった。

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