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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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三本の矢

【魔物国 王城 執務室】※ルクレシア視点


 地図を、広げた。

 建国地を、中心に置く。

 周囲の集落、街道、交易路を、一つずつ確認する。

 数字が、頭の中に並んでいく。


(……小さい)

 建国地は、まだ小さい。人口は少ない。

 農地は、開墾中だ。自給できるようになるまで、時間がかかる。

 つまり、今はまだ、外から物資を入れなければ生きていけない。


(そこだ)

 ルクレシアは、ペンを取った。地図の上に、線を引いていく。

 建国地に繋がる街道が、三本ある。


 北の街道。魔物国側の集落を経由する。

 東の街道。人間国側の小さな街を通る。

 南の獣道。商人が使う非公式のルートだ。


 三本とも、止める。

 それだけで、建国地への物資の流入が断たれる。

 兵糧が尽きれば、人は動けない。戦わずして、弱らせる。

(武力は使わない。これは外交だ)

 魔王の条件に、反しない。


 ルクレシアは、地図から顔を上げた。部下が、控えている。


「北の街道沿いの集落に、通達を出す」

「内容は」

「建国地との交易を、一時停止するよう要請する」

「強制ですか」

「要請だ」


 部下が、少し迷った顔をする。

「要請では、従わない集落も出るかと」

「構わない」


 ルクレシアは、ペンを動かしながら言った。

「従わない集落がどこかが分かれば、建国地の繋がりが見える」

 部下が、静かに頷いた。

「……なるほど」

「東の街道は、人間国側だ。直接は動けない」

「では」

「噂を流す」

 部下が、ペンを止めた。

「噂、ですか」

「二種類だ」


 ルクレシアは、地図を指でなぞった。

「一つ目。建国地は闇属性の魔族と人間が混在している。人間国の教会が異端と見なしている国だ。取引をすれば、教会の目に留まる」

「……商人が、自発的に避けるように」

「そうだ。商人は利益で動く。危険な取引は、自然に避ける」

「二つ目は」

「建国地が人間国への圧力を強めている。魔物国と連携して、人間国を挟撃する動きがある」


 部下が、少し顔を上げた。

「……それは、事実ではありません」

「事実である必要はない」

 ルクレシアは、静かに言った。

「人間国の民が信じれば、それが事実になる。建国地との取引は危険だという空気が広まれば、商人は動かなくなる」

 部下が、また書き取り始める。

「噂の出所は」

「複数に分散させろ。一箇所から出れば、疑われる。三箇所から同時に出れば、本物に見える」

「……承知しました」


 ルクレシアは、南の獣道に目を向けた。

(……ここが、問題だ)

 非公式のルートは、止めにくい。命令が届かない場所を、人は動く。

 特に、商人は。


(建国地は、何かを持っているはずだ)

 これだけの防衛力を維持するには、物資が必要だ。

 物資を得るには、何かを売っている。

 何を売っているのか。それが、まだ分かっていない。


「建国地が外に売っているものを調べろ」

「はい」

「何を持っているかが分かれば、何を止めればいいかが分かる」

 部下が、頷く。

「建国地の内部情報も集めろ」

「どのような手段で」

「商人でいい。入れるなら入れ」

「……建国地は、誰でも受け入れると聞いています」


 ルクレシアは、少し止まった。

(誰でも、受け入れる)

 それは、弱点でもある。誰でも入れるなら、こちらの人間も入れる。

「ならば、簡単だ」


 部下が、全て書き取り終えた。

「以上です。他に何か」

「南の獣道だけは、今は泳がせておけ」

「泳がせる、ですか」

「商人が何を運んでいるかを見る。止めるのは、それからだ」

 部下が、頷いて下がった。

 ルクレシアは、一人になった。地図を見る。

 三本の線が、建国地を囲んでいる。


(……だが)

 頭の片隅で、引っかかるものがあった。

 経済封鎖は、時間がかかる。

 建国地が弱るまで、どのくらいかかるか。半年か。一年か。

 その間に、建国地は育つかもしれない。

 農地が完成すれば、自給できるようになる。

 周辺の集落との関係が深まれば、封鎖が機能しなくなる。


(時間を、かけすぎてはいけない)

 経済封鎖は、あくまで第一手だ。

 本命は、別にある。建国地の内側に、楔を打つ。

 人間と魔族が共存している、その均衡を崩す。

 外から止めるのではなく、内側から揺らす。

(それが、本当の外交だ)

 

 だが、今はまだ準備が必要だ。

 まず、建国地の内側を知らなければならない。

 誰が、何を、どう思っているのか。

 ルクレシアは、また地図を見た。

 建国地の印が、小さく描かれている。

 まだ、小さい。


(……なぜか、小さく見えない気がするのか)

 数字の上では、小さいはずだ。

 だが、地図を見るたびに、その印が大きく感じる。

 計算では、説明できない感覚だ。

(……計算の外側、か)


 ルクレシアは、その考えを頭の隅に押しやった。

 今は、計算だ。感覚は、後でいい。

 ペンを、また取った。地図の上に、新しい線を引く。

 建国地を囲む線が、一本増えた。

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