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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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空間を縮める

【建国地 外縁 夜】


 誰もいない場所を、選んだ。

 夜の荒野。

 建国地の灯りが、遠くに見える。

 アルトは、一人で立っていた。

 

 理由は、単純だ。

 試したいことがあった。誰かに見られたくなかった。

 失敗するかもしれないからだ。


(……空間属性)

 この力を、アルトはまだ完全には理解していない。

 測定不能と言われた。魔王国でも、人間国でも、同じような属性を持つ者を見たことがない。

 前世のゲームでは、空間属性のキャラクターは「転移」を使った。

 距離を無効化する力だ。

 だが、ゲームとこの世界は違う。


(……どこまで同じで、どこから違うのか)

 アルトは、目の前の石を見た。十歩先に置いてきた石だ。

 あれを、手元に引き寄せる。

 距離を、縮める。理屈は、分かる。

 だが、やり方が分からない。


 魔力を、流してみる。どこに向けるか。

 石に向けるか。空間に向けるか。

 アルトは、目を閉じた。


(空間そのものを、操る)

 石を動かすのではない。石との距離を、縮める。

 石がある場所と、今いる場所の間にある空間を、圧縮する。

 魔力を、空間に向けた。

 薄く。広く。

 石と自分の間の空気に、意識を向ける。

 

 何も起きない。

 一分。

 二分。

 何も起きない。


(……違うか)

 アルトは、目を開けた。石は、十歩先にある。変わらない。

 もう一度、考える。


(ゲームでは、転移する前に座標を指定していた)

 座標、か。

 目的地を、先に決める。そして、今いる場所との距離を、縮める。

 順番が、逆だったかもしれない。


 アルトは、石を見た。石の位置を、頭の中に刻む。座標として。

 そして、魔力を流す。今度は、自分の足元に向けて。

 石の座標に向かって、自分がいる空間を引き寄せる。


 距離が、縮む感覚が。

(……あ)

 何かが、動いた。足元の感覚が、一瞬消えた。

 次の瞬間。

 石が、目の前にあった。十歩先にあったはずの石が。


 アルトは、しばらく動けなかった。

 自分が動いたのか。石が動いたのか分からない。

 だが、距離が、なくなっていた。


(……できた)

 胸の奥で、何かが跳ねた。

 興奮だった。久しぶりの感覚だ。

 前世でゲームの新しいテクニックを発見したときの、あの感覚。

 

 アルトは、石を拾った。

 普通の石だ。何も変わっていない。

 だが、自分は確かに、距離を消した。


(もう一度)

 今度は、建国地の灯りが見える方向に、座標を設定する。

 距離を縮める。足元の感覚が、消える。

 次の瞬間。

 景色が、変わっていた。建国地の外縁だ。

 二十歩は移動したはずだ。

 一瞬で。


(……これが、瞬間移動か)

 アルトは、息を整えた。疲労感がある。

 魔力の消費が、思ったより大きい。距離に比例するのかもしれない。

 短距離なら、繰り返せる。長距離は、まだ分からない。


(試してみよう)

 アルトは、荒野の向こうを見た。遠くに、岩が一つある。

 百歩は離れているだろう。座標を設定する。

 魔力を、集める。今度は、少し多めに。

 足元の感覚が、消える。


 一瞬の、暗闇。


 次の瞬間。岩が、目の前にあった。

 アルトは、岩に手をついた。

 膝が、少し震えている。魔力の消費が、大きかった。

 だが、できた。

(約百歩といったところか)

 限界ではないはずだ。

 

 アルトは、夜空を見上げた。星が、多い。

 前世では、こんな星空を見たことがなかった。


 建国地の灯りが見える。

 二百歩は離れているだろう。

 座標を設定する。魔力を、集める。

 今度は、限界まで。

 足元の感覚が、消える。


 一瞬の、暗闇。


 次の瞬間。景色が、変わった。

 だが、建国地ではない。

 荒野の、どこか中途半端な場所だ。

 百歩くらいしか進んでいない。

 魔力が、尽きた。アルトは、その場に膝をついた。

 足が、動かない。頭が、重い。


(……失敗した)

 距離が長すぎた。魔力が足りなかった。

 アルトは、しばらくそのまま荒野に座っていた。

 夜風が、冷たい。

 

 遠くに、建国地の灯りが見える。

 近いような、遠いような。

(……歩くか)

 立ち上がろうとして、また座った。

 膝が、笑っている。仕方なく、地面に寝転んだ。

 星空が、広がっている。前世では、こんな場所で寝転んだことはなかった。


(……限界は、百歩か)

 今夜分かったことを、頭の中で整理する。

 短距離なら、繰り返せる。百歩が、今の限界。

 無理をすれば、こうなる。だが、百歩あれば、使いどころはある。

 いざというときに、使えばいい。それまでは、磨いておく。


(今夜は、ここまでだ)

 アルトは、星空を見ながら、少しだけ笑った。

 チュートリアルで詰まった。ゲームなら、よくあることだ。

 しばらく寝転んでから、ゆっくり立ち上がった。

 建国地まで、歩いて帰った。思ったより、遠かった。

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