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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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54/65

落ちこぼれの完封

【建国地 外縁】※グラン視点


 地面が、教えてくれた。

 遠い。まだ遠い。だが、来ている。

 

 グランは、荒野の端に膝をついたまま、目を閉じていた。

 耳ではない。地を通じて、伝わってくる。

 規則的な振動。重い。速い。

 騎馬だ。数は、多い。


(……来たか)

 怖くないと言えば、嘘になる。

 騎馬隊というのは、正面から見れば壁だ。

 止める間もなく、踏み潰される。

 

 だが──

(オデは、正面に立たなくていい)

 

 アルトが言っていた。

 グランは、地を武器にするんじゃない。

 盤面として使う。

 最初に聞いたとき、意味がわからなかった。

 今は、わかる。

 

 地面の振動が、強くなる。

 地平の向こうに、砂埃が見え始めた。騎馬の群れ。

 陽光を反射する鎧。蹄の音が、腹に響く。


(でかい)

 正直な感想だった。

 だが、グランの手は、すでに地面に触れている。

 魔力を、細く、深く、流していた。

 

 地の声を聞く。

 ここは、どんな土か。

 どこが固く、どこが柔らかいか。

 どこに、水が通っているか。


(……ここだ)

 騎馬隊の進路、その先。表面は乾いて固い。

 だが、その下には細かい砂の層がある。

 重いものが乗れば、沈む。

 だが、見ただけでは分からない。


 グランは、息を整えた。

 力を込めすぎない。壊すんじゃない。

 ただ、少しだけ、柔らかくする。

 蹄が沈む、ちょうど嫌な深さに。

 

 騎馬隊が、射程に入る。後ろで、部下の声が聞こえた。

「グラン様、いつでも」

 グランは、答えなかった。

 地面と話していた。


(……今か?)

 もう少し、引きつける。

 騎馬の速度が、最大になる瞬間を待つ。

 速ければ速いほど、沈んだときに立て直せない。


 蹄の音が、耳に届き始めた。

 地面越しではない。空気を通じて。

 それが、合図だった。


(今だ)

 グランは、魔力を解放した。

 だが、爆発ではない。波だ。

 地面の表層だけを、さざ波のように揺らす。

 砂の層が、一瞬だけ液体のように動く。


 先頭の馬が、蹄を沈めた。

 一頭、また一頭。

 転ぶわけではない。だが、リズムが崩れる。

 騎馬というのは、リズムで動く。

 先頭が乱れれば、後ろも乱れる。連鎖だ。


 怒号が上がった。

「なんだ、地面が!」「速度を落とせ!」「隊列が崩れるぞ!」

 騎馬隊が、乱れた。

 だが、止まらない。立て直そうとしている。

 

 指揮官の声が響く。

「怯むな!押し切れ!」

 グランは、それを聞いて、静かに思った。

(来るなら、来い)

 次の手は、すでに決まっていた。


 魔力を、今度は深く流す。表層ではない。

 もっと下。地の骨格に触れる。

 地面が、低く唸った。


 騎馬隊の前方、十間先。地面が、盛り上がる。

 ゆっくりではない。一息で、膝の高さまで。


「なんだあれは!」

「壁が、出てきたぞ!」


 岩と土が混じった隆起。

 城壁ほどではない。

 だが、騎馬が全速で越えられる高さでもない。

 先頭の数頭が、急停止した。

 後ろが、追突する。隊列が、団子になる。


(……そこだ)

 グランは、今度は横に魔力を走らせた。

 隆起した壁の両端。左右に、さらに盛り上がる。

 回り込もうとした騎馬の行く手が、塞がれる。


「右が塞がれた!」

「左も!」

「退け、退けぇ!」

 指揮官の声が、怒号から悲鳴に変わった。


 グランは、立ち上がった。

 膝についた土を、軽く払う。

 隆起は、崩れない。揺らしもしない。

 ただ、そこにある。

 動けない騎馬隊が、壁の前で立ち尽くしている。


 部下が、息を呑んだ。

「……グラン様」

「うん」

「あれ、一人でやったんですか」

 グランは、少し考えた。

「一人じゃない」

「え?」

「地面が、やってくれた」

 部下は、意味が分からない顔をしている。


 グランは、それ以上説明しなかった。

 地面の声を聞いた。地面が答えてくれた。それだけのことだ。

 

 後ろで、アルトの声が聞こえた。

「グラン、完璧だ」

「オデじゃない、地面に礼を言っといてくれ」


 一瞬の間。


 アルトが、小さく笑った気配がした。

「応えてくれて、ありがとうな」

 

 騎馬隊は、撤退を始めていた。

 壁を壊す術を持たない。

 回り込む道もない。

 ここは、もう通れない。


 グランは、また地面に手を置いた。

(……ありがとな)

 地面は、何も言わない。

 だが、温かかった。


 これで、二度目だった。

 魔物国の騎馬も、同じ場所で止まっている。

 地面は、どちらにも平等だった。


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