測定不能の理由
魔王城地下、さらに奥。
王族の目に触れない場所に、魔導士団の研究区画がある。
夜半。
そこでは、数名の上級魔導士が集まっていた。
「……第三王子の件だ」
口火を切ったのは、能力判定を担当した老魔導士だった。
「やはり、故障ではなかったのか」
「断言する。あの測定具は、私が三百年扱ってきた」
彼は、机に置かれた水晶を見つめる。
「壊れたことなど、一度もない」
別の魔導士が、記録板を操作する。
「闇・火・水・地・風。いずれも平均以上、突出なし」
「問題は、特殊属性判定だ」
「“反応はあるが、中心が定まらない”」
その一文が、場の空気を重くした。
「考えられる可能性は三つ」
老魔導士が指を立てる。
「一つ。未確認属性
二つ。既存属性だが、測定体系外」
三つ――」
一瞬、言葉を切る。
「測定されること自体を、拒否する性質」
「そんなもの……」
若い魔導士が息を呑む。
「聞いたことがありません」
「だから問題なのだ」
魔導士たちは、過去の記録を洗い始めた。
禁書庫。
滅びた国々の魔導研究。
人間国から流出した文献。
だが――
一致する事例は、一つもなかった。
「……だが、共通点はある」
老魔導士が、ある羊皮紙を示す。
「国家級災害の直前に現れる、
“測定不能者”の記録だ」
それは、王でも勇者でもない。
空間に関わる異変の前兆。
だが、記録はすべて断片的で、
確証には至らない。
「もし、第三王子が――」
誰かが言いかけて、口を閉じた。
「やめておけ」
老魔導士は、低く言った。
「確証のない疑念を、王族に向けるな」
「特に……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「魔王は、あの王子を気に入っている」
調査は、非公式に行われることになった。
表向きは何もなかったことにする。
だが――
「日常行動の記録を」
「距離感覚、配置判断、魔法陣との相性」
「可能な限り、刺激しない形で」
それは監視ではなく、観測だった。
一方その頃。
俺――アルト・ノクティスは、
何も知らない顔で廊下を歩いていた。
だが――
(……視線が、増えたな)
魔導士特有の、「観察する目」。
(まあ、そうなるよな)
想定内だ。その夜、俺は地図を眺めていた。
魔王城。
中間地帯。
人間国との境界。
不思議なことに、距離が、やけに分かりやすい。
(……拡大も縮小もしてないのに)
ただ、位置関係が“腑に落ちる”。
魔導士団は、まだ気づいていない。
測定不能だったのは、能力が弱いからでも、未知だからでもない。
「測る側の枠に、収まらなかった」だけだ。
そしてそれは、国家という単位で初めて意味を持つ力だった。
水面下で、魔導士たちは調査を続ける。
表では何も起きない。
だが、盤面の深部で、確実に「異物」が認識され始めていた。




