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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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48/65

水が流れる

 囲いが生まれてから三日。

 荒野は、まだ荒野のままだった。


 囲いの外では、遠く砲撃のような衝撃音が響く。

 夜になれば、地平の向こうが赤く染まる。

 戦争は、止まっていない。


 ここはただ、まだ「見つかっていない」だけの場所だ。

 セフィラは、その中央に立っていた。


 空は高い。風は乾いている。

 喉が焼けるように痛い。


(……水が足りない)

 戦場では、水は刃だった。


 濁流で敵を分断し、刃のような圧で鎧を砕き、溺れさせる。

 力を解き放てば、応えるのが水だった。


 だが、ここでは違う。


 激流は畑を壊す。波は囲いを削る。

 欲しいのは、毎日ある水。暴れない水。消えない水。


 囲いの内側で、兵士たちが水袋を振っている。

 残量は少ない。補給線は、すでに不安定だ。


 ここは戦場の裏側。公式な拠点ではない。

 もし見つかれば、両国から同時に叩かれる。

 水が尽きれば、戦わずに終わる。


(……怖い)


 セフィラは、初めてそれを認めた。

 戦うことは怖くなかった。

 だが、守れないことは怖い。


 水を暴れさせるのは簡単だ。

 だが、制御し続けることは、難しい。


 彼女は膝をつき、指先で土を掬う。

 粉のように乾いている。

 だが、その奥。


(……まだある)


 地下深く、細い水脈が流れている。

 戦争で踏み荒らされ、誰にも顧みられなかった水。


 セフィラは、目を閉じる。

 戦場でのやり方を、意図的に切り捨てる。


(引き上げるな。暴れさせるな…巡らせる)


 魔力を、糸のように細く伸ばす。


 大地の奥へ。

 水の流れへ。


 遠くで、小さな爆ぜる音がする。

 砲撃か、魔法か。


 誰かが緊張して空を見上げる。

 ここは戦時中だ。


 集中を乱せば、魔力は暴発する。

 それでも止めない。


(ここは、戦場じゃない。

 ここは、住む場所だ)


 魔力が、地下水に触れる。

 拒絶はない。

 だが、流れは不安定だ。


 強く引けば、一気に噴き出す。

 それは、一瞬で終わる。


(違う。続けるんだ)


 セフィラは、自分の呼吸を水に合わせる。

 吸って、吐いて。

 押さない。急がない。

 ただ、少しだけ、方向を与える。


 囲いの内側、低い窪地に湿り気が滲む。

 誰かが気づく。


「……地面、濡れてる」


 兵士がしゃがみ込み、手で掘る。

 冷たい感触。

 さらに掘ると、じわりと水が溜まる。


 歓声は上がらない。

 皆、声を潜めている。

 ここが見つかれば終わる。


 だが、その目には確かな光が宿る。


 水は、溢れない。暴れない。

 ただ、静かに溜まっていく。

 桶一杯分。


 それだけで、空気が変わった。

 セフィラは、立ち上がれなかった。

 魔力を一気に使ったわけではない。


 だが、ずっと緊張していた。

 水を暴れさせないために。

 国を壊さないために。


(これで……

 ここは、生きられる)

━━━━━━━━━━━━

 夜。


 焚き火の近くで、兵士たちが水を分け合う。

 喉を潤し、顔を洗う。

 その様子を見ながら、誰かが呟く。


「……家族を呼べるかもしれないな」


 その言葉は、すぐには広がらない。

 だが、消えない。


 戦争は、続いている。

 外では命が削られ、勇者が剣を振るい、魔王が軍を動かしている。


 だがこの囲いの内側では、水が流れている。

 毎日、少しずつ。


 セフィラは、水面に映る自分を見る。

 戦場の水の使い手ではない。

 ここでは、ただの一人の女だ。


(……これでいい)


 水がある。

 守りがある。

 まだ脆い。


 だが、崩れていない。


 遠くで、再び衝撃音が響く。

 誰かが武器に手をかける。

 緊張は消えない。


 だが、水は揺れない。

 それは、国が生まれる前触れだった。


 剣よりも先に、水が流れた。

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