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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
建国編

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47/65

ただのグラン

 囲いの内側で、夜は静かだった。


 焚き火のはぜる音。

 誰かの寝息。遠くで風が土を撫でる音。

 グランは、そのすべてを聞いていた。


 地面に座り、大地に手を置く。

 力を流しているわけではない。

 ただ、触れているだけだ。


 それでも、地の状態は分かる。

 張りつめていない。

 怒ってもいない。


 ここは、落ち着いている。


(……守れてる)


 そう思った瞬間、胸の奥が、少しだけ痛んだ。

 これまで、守れたことなどなかった。


 一対一では勝てない。

 正面から殴り合えば負ける。

 地属性貴族としては、出来損ない。


 だから、畑に回された。

 鍬を振り、地を耕し、戦場から遠ざけられた。


(でも、オデは捨てられてなかった)


 思い出すのは、地属性貴族家の屋敷。

 冷たい視線。失望した顔。


 それでも、居場所は与えられていた。

 地に触れることは、許されていた。


(あの家がなきゃ、オデは地に触れなかった)


 教えは厳しかった。

 期待には応えられなかった。

 だが、地を憎めとは、言われなかった。


 それだけで、十分だったのかもしれない。

 アルトと出会い、初めて言われた。


 「使い方を知らなかっただけだ」と。


 それは、評価でも、慰めでもなかった。

 選択肢だった。


(オデは、強くなりたいわけじゃねぇ。

 前に出たいわけでもねぇ)


 囲いの向こうを想像する。


 もし、ここが破られたら。


 畑が踏み荒らされ、また、戦場になる。

 それだけは、嫌だった。


 グランは、ゆっくりと地面に額をつけた。

 祈りではない。約束だ。


(オデは、動かねぇ。揺らがねぇ。ここで、踏ん張る)


 誰かに認められなくていい。

 称号も、名誉も要らない。


 必要なのは、崩れないこと。


(オデは、ただのグランだ)


 それでいい。

 それで、守れるなら。

━━━━━━━━━━━━

 それは、夜明け前だった。


 囲いの外。

 乾いた土を踏む、規則的な音。馬だ。


 グランは、すぐに気づいた。

 数は多くない。偵察だ。


(……来たか)


 焦りはなかった。

 囲いの内側では、まだ人々が眠っている。

 起こすわけにはいかない。


(ここで、止める)


 グランは、囲いの端まで歩いた。

 外に出ない。内側から、地面に手を置く。


(壊すな。驚かすな。進めなくするだけだ)


 力を流す。

 だが、深くは潜らせない。表層だけ。


 馬の蹄が沈む、ちょうど嫌な深さ。

 外で、声が上がった。


「……おい。地面が、おかしいぞ」


 蹄が、ぬかるみに取られる。

 一歩、前に出るたび、馬が嫌がる。


 グランは、ほんのわずか大地を揺らした。

 震度にもならない。

 だが、馬には十分だった。

 踏み出すたび、バランスを崩す。


「……戻るぞ。ここは無理だ」


 判断は早かった。

 戦いにはならない。


 囲いの中に、人の気配があることも、

 詳しくは分からない。


 ただ、「嫌な場所」だという印象だけが残る。

 馬の音が、遠ざかる。


 完全に聞こえなくなるまで、

 グランは動かなかった。


(……よし)


 力を抜く。


 ぬかるみは、少しずつ固まる。

 振動も、止まる。

 痕跡は、ほとんど残らない。


 囲いの内側で、誰かが寝返りを打つ音がした。


 それを聞いて、

 グランは、ゆっくり息を吐いた。


(誰も、起きなかった。それでいい)


 剣は振っていない。

 血も流れていない。


 だが、確かに守った。


(オデは、ただのグランだ。

 それで、十分だ)


 後に、この出来事は報告される。


 「原因不明の地形不良」

 「進軍不能」


 それ以上の言葉は、どこにも残らない。


 だが、囲いの内側では、何も失われなかった。

 それがグランの選んだやり方だった。

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