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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人間国編

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零れ落ちたものたち

 それは、公式な記録には残らない。


 報告書にも、神殿の帳簿にも、王家の議事録にも。


 だが、確かに起きていた。


 人間国の北方。

 国境からは遠く、交易路からも外れた地域。

 地図には載っているが、誰も気に留めない場所。


 そこに、小さな集落があった。

 壁は低く、防備も脆い。


 だが、不思議なことに、魔族の襲撃も、盗賊の被害も、

 ほとんど報告されていない。

 集落にいる者たちは、共通点を持っている。


 闇属性。


 ある者は、生まれたときに気づかれなかった。

 ある者は、親が必死に隠した。

 ある者は、「処理」の途中で消えたことになっている。


 名前も、経緯も、ばらばらだ。

 だが、ここでは生きている。

 誰が始めたのかは、分からない。


 最初は、一人の修道士だったという噂もある。


 神殿の教えに疑問を抱き、闇属性の子を見捨てきれなかった者。

 あるいは、戦争で家族を失い、国に見切りをつけた元兵士。


 もしくは――

 魔族と接触した人間。


 真実は、まだ語られない。

 集落では、闇属性であることを隠さない。

 だが、誇りもしない。


 ただ、生きているだけだ。


 子供たちは、普通に笑い、普通に転び、普通に泣く。

 剣を振るわされることも、祈りを強制されることもない。

 属性は、ここでは「性質の一つ」でしかない。


 外の世界が、それを許さないことは、全員が知っている。


 だから、広げない。

 声高に主張しない。


 ただ、消えないように、静かに続ける。

 この噂は、断片的に広がり始めていた。


 辺境を巡る商人の間で。

 傭兵たちの酒席で。

 そして――

 神殿の、末端の耳に。


「……妙な話だ」


 ある下級司祭は、報告書を読みながら眉をひそめた。

 闇属性の子が、“処理”されていない。

 それは、秩序の否定だ。


 だが、同時に気づく。


 暴動は起きていない。

 魔族との内通も確認されていない。


 問題は――表に出ていない。


(今は、放置でいい)


 上は、そう判断するだろう。


 戦争が優先だ。勇者が前に出ている。

 小さな歪みより、大きな勝利。


 それが、今の人間国の価値基準だった。


 勇者エリオスは、この集落の存在をまだ知らない。

 だが、知る素地は、すでにできている。


 闇属性の子を救う方法を、考えたことがある。


 否定し、諦め、

 それでも、心に残った問い。


(闇を、闇のまま生かす道はないのか)


 その問いは、誰かの行動となって、

 すでに形を持ち始めていた。


━━━━━━━━━━━━


 一方、魔物国の側でも、

 同じ噂が届き始めている。


 人間の中に、闇を抱えたまま生きる者たちがいる。

 排除されず、矯正されず、利用もされていない。


 アルト・ノクティスは、

 その報告を受け、しばらく沈黙した。

 驚きはない。


(……出てきたか)


 建国構想の中で、最も時間がかかると思っていた部分だ。

 人間側から、零れ落ちる存在。


 それは、どんな理想論よりも、強い現実だった。


(勇者が、直接動いたわけじゃない。

 だが、彼が疑問を持ったことは、確実に波紋を生んでいる)


 アルトは、その集落に手を伸ばさない。

 今は、まだ早い。


 守れば、利用になる。

 名を与えれば、狙われる。


(育てろ。消えない程度に)


 それだけを、密かに命じた。


 誰に向けた命かは、記録に残らない。

 闇属性の子は、今日もどこかで生きている。


 光に照らされることなく、

 闇に沈められることもなく。


 ただ、次の時代を待ちながら。


 それは、まだ「国」ではない。

 だが、国になる前の土壌だった。


 光が疑問を抱き、闇が消えずに残り、

 そのあいだに、名前のない場所が生まれる。


 世界は、ゆっくりとだが確実に分岐し始めている。

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