危険な光
※アルト視点です
戦は、続いている。
だがアルト・ノクティスの中で、この戦争はすでに「勝つか負けるか」の段階を越えていた。
今、見るべきは――
誰が、何を理解し始めたかだ。
本陣の後方。地形の陰に設けられた臨時の指揮所で、アルトは盤面を確認していた。
地形。兵の消耗。人間国側の進軍速度。
そして、勇者エリオスの動き。
(……変わった)
それは、数字にも、報告書にも表れない変化だった。
勇者は、以前よりも前に出ている。
より苛烈に。より確実に。
だが同時に、無駄な追撃をしなくなった。
戦場を、「殲滅」ではなく「収束」で終わらせようとしている。
背後で、レオンが小さく呟く。
「慎重になった、というより…覚悟を決めた、ですね」
アルトは否定しなかった。
あの夜。密会のあと。
勇者は、戻った。
疑問を抱えたまま。しかし、立ち止まらずに。
(危険だ)
アルトは、そう結論づける。
純粋な正義よりも、疑問を抱えた正義のほうが、はるかに危うい。
(自分が汚れていると理解した上で、なお剣を振るえる者は、止まらない)
迷い続ける者は、折れる。
疑わない者は、壊れる。
だが、理解してなお、進む者は世界を削り続ける。
(あれは人間国にとっての切り札であると同時に、最大の不発弾だ)
アルトは、戦況図から視線を上げた。
自分の立場を、改めて考える。
第三王子。
魔物国の内部では、まだ“異端”の域を出ない存在。
だが、この戦争は――秩序を壊すほど大きい。
アルトは、勇者を倒すことを最優先には置かなかった。
殺せば、人間国は一つになる。それは最悪の展開だ。
(勇者は、生かす。だが、英雄のままではいさせない)
疑問を抱えた光。闇を内包した勇者。
それは、人間国の価値観を内側から揺らす存在になる。
「戦争は、俺たちが始めたものじゃない」
アルトは、独り言のように言った。
「だが、終わらせ方は選べる」
彼の視線は、地図の中央へ向かう。
人間国と魔物国の、境界。
争い続ける理由そのものが、積み重なってきた場所。
(ここに、第三の場所を作る)
建国。
人間でもなく、魔物でもない。
光と闇のどちらにも属さず、どちらとも交渉できる場所。
(勇者が疑問を抱いたまま進むなら、
その先で、必ず“答え”を求める)
その時、斬るしか選べない世界では、彼は立ち止まる。
だが。
(別の選択肢があれば)
アルトは、初めてわずかに口元を緩めた。
「……いい試金石だ」
勇者エリオスは、敵としては厄介だ。
だが、世界を変えるための“触媒”としては、これ以上ない存在だった。
アルトは、静かに言葉を続ける。
「国は剣で作るものじゃない。
剣を、使わなくても済む理由を作るものだ」
戦争は、まだ終わらない。
だが、その意味は、少しずつ変わり始めている。
勇者は、疑問を抱えたまま剣を振るう。
アルトは、その疑問の行き先に、国を置こうとしている。
光と闇が交わる未来は、まだ遠い。
だが、交わらないまま続く世界よりは、はるかに現実的だ。
アルト・ノクティスは、戦場を見下ろしながら、静かに確信していた。
(あの勇者は、必ず、俺の前に立つ。
剣ではなく、答えを求めて)
それが、この戦争の行き着く先だ。




