測定不能
魔王城地下、属性測定の間。
王族は一定の年齢に達すると、魔力の性質と適性を測定される。
それは祝福であり、同時に将来の役割を決める儀式でもあった。
俺は、淡々とその場に立っていた。
(さて……初期ステータス確認か)
ゲーマーとしては、この瞬間が一番落ち着かない。
「第三王子、前へ」
老魔導士の声に促され、俺は円形の魔法陣の中央へ進む。
床に刻まれた紋様が淡く光り、一つずつ属性を検知していく。
「闇属性……問題なし。 平均をやや上回る」
(無難)
「火……反応あり」
「水……安定」
「地……標準」
「風……やや高め」
測定は順調だった。
兄姉と比べれば、突出はしていない。
だが、欠点もない。
(序盤キャラとしては理想的だな)
最後に、老魔導士が一瞬ためらい、別の水晶を取り出した。
「……特殊属性の測定に移ります」
場の空気が、わずかに張り詰める。
特殊属性は稀だ。出ない者の方が圧倒的に多い。
水晶が、俺の前に置かれた。
「触れてください」
俺は、指先を軽く当てる。
――瞬間。
違和感が走った。水晶が光らない。
だが、沈黙でもない。
距離が、ずれた。
(……?)
目の前にあるはずの水晶が、一瞬だけ“遠く”感じた。
次の瞬間、老魔導士が目を見開く。
「……おかしい」
「どうした?」
魔王が、低く問いかける。
「数値が……出ません」
周囲がざわめく。
「反応なし、ということか?」
「いえ……違います」
老魔導士は、額に汗を浮かべていた。
「反応は、あります。ですが……“位置”が定まりません」
「位置?」
「測定範囲が……固定できないのです」
別の魔導士が、慌てて補助装置を起動する。
だが結果は同じだった。
「中心が……ずれる」
「測定円が安定しない……!」
床の魔法陣が、微かに歪む。
誰も、原因を説明できない。
(なるほど……数値化不能タイプか)
俺は、妙に冷静だった。
魔王が、しばし俺を見つめる。
その視線は、兄姉に向ける評価の目とは違っていた。
「故障か?」
「……可能性はあります」
老魔導士は、苦し紛れに答える。
「前例が、ありませんので」
魔王は、短く息を吐いた。
「ならば記録は――測定不能」
その一言で、場が静まった。
測定は、そこで打ち切られた。
兄姉は、それぞれ違う反応を見せる。
第一王子は、興味なさそうに肩をすくめ。
「役に立たない属性なんだろう」
第二王女は、俺を一瞥し、小さく笑った。
「不確定要素は、嫌いね」
(ああ……いい反応だ)
完全に“脅威外”として認識された。
部屋を出る直前、老魔導士が小声で呟いた。
「……空間が、拒んでいるようだった」
俺は、足を止めなかった。
(拒んでる、か
たぶん――“収まらなかった”だけだ)
その夜、俺は自室で静かに考える。
(派手に出なかったのは正解だ)
能力は、知られた瞬間から対策される。
(この力は……国を作るためのものだ)
戦うためじゃない。目立つためでもない。
配置し、隔て、守るための力。
魔王城は、今日も何事もなかったように動いている。
だが――盤面の“基礎法則”が、
静かに一つ、書き換わった。
それを理解しているのは、まだ俺だけだった。




