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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人間国編

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39/65

守られる光、消される影

 人間国の中枢は、静かだった。


 神殿の最奥、厚い石壁に囲まれた会議室では、香の煙が緩やかに立ち上っている。

 そこに集うのは、王家の重臣と神殿の高位司祭たち。

 誰も声を荒げない。

 彼らにとって、世界は常に管理可能なものだからだ。


 話題は一つだった。勇者エリオスの動向。

 彼がどの戦場に立ち、どの街を通り、どの言葉を発したか。

 それらは逐一、記録され、整理され、評価される。


 誰も、彼の心情には触れない。

 勇者の内面は、管理する必要のない領域だからだ。


 彼が信じている限り、光は揺らがない。

 揺らがない光は、民を安心させる。

 安心した民は、疑問を抱かない。


 疑問を抱かない国は、統治しやすい。

 それだけの話だった。


 ある司祭は、香の煙越しに考える。


(勇者は、正しく育っている。疑わず、迷わず、前に進む。

 多少の違和感は、戦場に立てば消える)


 剣を振るう理由を、彼は自分で疑わない。


 それが最も重要だった。


 勇者は、考える者であってはならない。

 象徴でなければならない。


━━━━━━━━━━━━


 夜明け前。王都の外れにある、古い修道院。


 ここは祈りの場であり、同時に“処理”の場でもあった。

 石造りの回廊を、小さな影が歩かされている。


 闇属性の子だ。


 まだ幼い。泣き声も出さない。

 泣くことが、無意味だと知っているからだ。

 付き添う神官の表情は硬い。だが、迷いはない。


(これは必要なことだ。闇を残せば、民が不安になる。

 不安は、やがて秩序を壊す)


 彼らは、自分たちが残酷だとは思っていない。

 残酷なのは、世界の方だ。


 闇は存在してはならない。

 存在してしまった以上、消すしかない。

 それが、正しい手順だと信じている。


 子どもは、小さな部屋に通される。


 窓はない。光もない。


 祈りの言葉が唱えられる。

 祝福ではない。()()()()()()の言葉だ。


 やがて、記録が一つ、閉じられる。

 名前は残らない。

 数字だけが残る。


 「問題なし」


 その紙切れ一枚が、人間国の平穏を支えている。


 同じ時間、勇者エリオスは別の場所にいた。

 訓練場で、剣を振るっている。

 汗を流し、息を整え、次の戦に備える。


 彼は知らない。


 自分が守ろうとしている国が、どんな影の上に立っているのか。

 だが、それでいいと、大人たちは思っている。


 勇者に、すべてを背負わせる必要はない。

 彼には、光だけを背負わせればいい。


 闇は、彼の知らない場所で処理される。

 それが、この国のやり方だ。


 そして、このやり方が続く限り、人間国は揺るがない。


 少なくとも――今のところは。


 勇者は剣を振り下ろし、深く息を吐く。


(次の戦で、もっと多くを救える)

 そう信じて、前を向く。


 その背中を、王家と神殿は満足そうに見つめていた。


 光は、今日も正しく使われている。


 闇は、今日も静かに消されている。


 まだ、誰も疑わない。

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