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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
争乱編

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34/66

割れる声を沈める場所

 怒号は、収まっていなかった。


 集落の中央。

 忌み子の子どもを中心に、人の輪が歪な形で広がっている。

 誰もが前に出たい。だが、誰もが触れたくない。

 その曖昧さが、空気を最も荒らしていた。


「光だぞ!」

「災いを呼ぶ!」

「近づくな!」


 怒鳴る声の裏には、恐怖がある。

 確信ではない。分からないことへの怯えだ。


 アルトは、その中心へ一歩進んだ。

 王家の名は名乗らない。声も張り上げない。

 ただ、視線が集まる位置に立つ。


「……よく見ておけ」


 背後で、弟妹に向かって低く言う。


「これから起きることは、誰かが正しいから起きるんじゃない。

 誰も、自分が間違っていると思っていないから起きる」


 弟妹は、黙って頷いた。震えはあるが、目は逸らさない。

 アルトは、群衆に向き直る。


「ここにいる全員に聞く」


 声は大きくない。

 だが、不思議と通った。


 地面にうずくまる忌み子を指す。


「この子を今ここで殺したい者はいるか」


 ざわめきが、一段強くなる。


「そんなことは言ってない!」

「でも、放っておけない!」

「危険だ!」


 誰も、はっきりと「殺す」とは言わない。

 それが、答えだった。


「分かっている」


 アルトは、淡々と続ける。


「誰も、人殺しになりたいわけじゃない。

 だが、このままでは誰かが石を投げ続ける。

 それは“殺すつもりはなかった”という言い訳では、終わらない」


 空気が、わずかに冷える。


「なら、選べ」


 アルトは言った。


「ここで三つの選択肢を出す。


 指を一本立てる。


「一つ、軍を呼ぶ」


 どよめきが走る。


「この集落は封鎖され、忌み子は連行される。

 石を投げた者も止めに入った者も同じ“暴徒”として扱われる」


 顔色が変わる。

 指を二本立てる。


「二つ、この子を完全に追い出す。境界の外へ捨てる。

 今日で終わるが、次に現れた忌み子も同じことを繰り返す」


 そして、三本目。


「三つ、この集落でこの子を“管理”する。

 王家でも軍でもない。お前たち自身でだ」


 沈黙。


「危険はある。不安もあるだろう。

 しかし、今日、誰も人殺しにならずに済む。

 どれを選ぶか、俺は決めない」


 群衆が、ざわつく。


「責任を押し付ける気か!」


「違う」


 アルトは、即座に返す。


「責任は、もうここにある。今、石を持っている者全員が、

 すでに、責任の中にいる」


 沈黙が、落ちた。

 怒鳴り声が、止まる。


 しばらくして、年老いた魔物が前に出た。

 この集落で、最も多くの季節を見てきた者だ。


「……三つ目だ」


 声は、震えている。


「怖い。だが、このまま石を投げ続ける方がもっと怖い」


 一人、また一人と、頷く。


 完全な合意ではない。だが、流れは変わった。

 アルトは、ルシエルを見る。


「……今だ」


 ルシエルは、ゆっくりと前に出た。


 恐怖はある。だが、逃げない。

 彼女は、忌み子の隣にしゃがみ込む。


「この子は、“忌み子”じゃありません。境界に生まれた子です。

 だから、不安なら一緒に見てください。

 危険なら一緒に考えてください。

 投げる石を考える時間に変えてください」


 その言葉は、命令でも、説教でもない。

 提案だった。


 第四王女は、息を呑んだ。

 第五王子は、目を逸らさずに、その光景を見ている。


 怖い。だが、目を逸らさない。

 こうして、暴動は「終わった」。


 解決ではない。破裂しなかっただけだ。

 忌み子は、集落の端の家に移された。

 見張りもいる。反発も残っている。


 だが、石は置かれた。


 アルトは、最後に弟妹へ向き直る。


「よく、見たな。これが…

 王が、現実に踏み込むということだ」


 弟妹は、何も言えなかった。


 ただ、深く、深く、胸に刻みつけていた。

 忌み子騒乱は、この夜、ひとまず沈んだ。


 だが――

 答えは、まだ出ていない。

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