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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
争乱編

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32/65

王が投げる石

 魔王城、玉座の間。


 天井は高く、音が吸われる。

 足音さえ、ここでは余計なものとして消えていく。


 呼び出されたのは三人だった。

 第一王子、第二王女、そして第三王子――アルト・ノクティス。


 玉座に座す魔王は、すでに待っていた。

 腕を組み、背を預け、まるで時間という概念そのものが腰掛けているかのようだ。


「南部、第三区画」

 魔王は、前置きなく口を開いた。

 声は低く、乾いている。怒気も、苛立ちも、焦りもない。


「光属性の忌み子が確認された」


 その言葉に、アルトの胸がわずかに沈む。


(来たか……)


 これまで、どこか遠くの出来事として聞いていた言葉。

 だが、今は自分の足元に落ちてきた。


「集落の中央で口論が発生。投石あり。止めに入った者が殴打された」

 淡々とした報告。


 まるで、帳簿を読み上げているだけのようだ。


「現時点で死者はいないが、放置すれば暴動に発展する可能性が高い」


 魔王は、ここで一度、視線を上げた。

 玉座の間にいる三人を、等しく見渡す。


「この件について──第一王子、第二王女」


 二人の視線が、魔王に向く。


「動くな」

 短い命令だった。


 理由は語られない。補足もない。


 第一王子は、わずかに口角を上げた。

 不満ではない。自分の戦場ではないと、即座に切り替えただけだ。


 第二王女は、一切表情を変えなかった。

 すでに、この配置の意味を理解している。


「第三王子」


 魔王の視線が、アルトに定まる。


「お前が行け」

 一瞬、喉が鳴った。


「軍は動かさない。王家の名も使うな」


 条件が、一つずつ積み上げられる。


「成功も失敗もすべて、お前の責任だ」


 その言葉が、アルトの胸に、重く落ちる。


(丸投げだ。助言も、保険も、逃げ道もない。

 これは……試練ですらない)


「私に任せた理由は?」


 アルトは、自分でも驚くほど冷静に問うた。


 魔王は、ほんのわずかに目を細める。


「理由か…ない。ただ、見たいだけだ」


 これは命令ではあるが、期待ではない。

 救済でもない。観測だ。


 アルトの背中に、冷たい汗が流れる。


(俺がどうなるかは、本当にどうでもいいんだな。

 結果だけが、ここに残る)


 魔王は、淡々と続ける。


「忌み子がどう扱われるか。民がどう動くか。

 そして――」


 視線が、再びアルトに戻る。


「お前が、どう乗り切るか」


 玉座の間が、一瞬、静まり返った。


 アルトは、深く息を吸った。

 恐怖は、確かにある。


 失敗すれば、民に憎まれ、血が流れ、取り返しがつかない。


(だが、ここで背を向ければ、俺は一生、盤面の外に立てない)


「……承知しました」


 アルトは、ゆっくりと頭を下げた。

 だが、そのまま終わらなかった。


 顔を上げ、魔王をまっすぐに見る。


「一つ、質問があります」


「許可する」


「やり方は、問いませんか?」


 その問いは、覚悟の確認だった。

 誰かを傷つける可能性も含めて、すべてを背負う覚悟があるか。


 そして――どこまで許されるのか。


 魔王は、一拍置いてから答えた。


「問わん。結果だけを持ち帰れ」


 それだけだった。


 玉座の間を出たあと、アルトは長い回廊を歩く。

 足音が、やけに大きく聞こえた。


(やり方は問われない。だが、やったことは必ず残る)


 第二王女は、その背中を、黙って見送っていた。

 声はかけない。助けもしない。


(丸投げ……実に魔王らしい)


 内心で、そう評価する。


(成功すれば、第三王子は“使える”。

 失敗すれば、それまで)


 アルト・ノクティスは、

 回廊の途中で一度だけ足を止めた。

 胸の奥が、静かに熱を持っている。


「……行くしかないな」


 忌み子の事件は、もはや避けられない。

 そしてこれは、誰かを救う話ではない。


 王として、どこまで汚れるかを問われる話だ。

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