為政者の育て方
魔王城での生活にも、一定のリズムができてきた。
朝は座学。
昼は魔法訓練。
夜は報告と反省。
王族としての英才教育だが、内容はどこか歪んでいた。
(……戦争しか想定してないな)
戦術、戦術、戦術。
勝ち方ばかりで、続け方がない。
俺は、その隙間を自分で埋め始めていた。
ある日、内政官の講義で、こんな問いが出た。
「国を豊かにするには、何が必要だ?」
第一王子は即答した。
「軍だ。すべて奪えばいい」
第二王女は、冷静に言う。
「効率的な徴税と、不要な民の整理」
(……どっちも短期スコアしか見てない)
俺は、手を挙げた。
「“減らさないこと”です」
皆が一瞬、静まり返る。
「減らさないとは?」
「民も、土地も、信頼も一度失ったものは、取り戻すのに、何倍もかかります」
内政官は、興味深そうに頷いた。
第一王子は鼻で笑い、
第二王女は目を細めた。
(刺さったな)
数年後。
城に、新しい命が生まれた。第四王女セレナ。
さらにその二年後、第五王子リオン。
兄姉たちは、ほとんど関心を示さなかった。
王位争いに、邪魔になる存在でもないからだ。
(……放置されたサブキャラか)
だが、俺は違った。
(この二人は、育て方次第で化ける)
「父上、下の二人の姉弟の教育を私に任せていただけませんか」
俺は魔王に進言した。
魔王は、しばし俺を見つめる。
「……理由は?」
「戦い以外の視点を、持たせたいのです」
沈黙の後、魔王は言った。
「許可しよう」
(通ったか)
第三王子という立場が、ここで効いてくる。
教育は、遊びから始めた。
地図を広げ、駒を並べる。
「これは、国」「これは、民」「これは、兵」
第四王女は目を輝かせ、
第五王子は真剣に頷く。
「じゃあ、兵を全部動かしたらどうなる?」
「……畑が荒れます」
第四王女の答えに、俺は頷く。
「そう。勝っても、食べられなきゃ意味がない」
夜になると、簡単な帳簿を見せた。
「数字は嘘をつかない」
「でも、全部は書いてない」
「だから、想像する」
税の裏に、生活がある、家族がある、命がある。
それを、何度も説明した。
この二人は、“人を見る”ことができる。
第一王子にも、第二王女にも、決定的に欠けている資質だ。
(……いい感じだ)
ある夜、俺は一人で考える。
(千年王国は、制度で作る
英雄に頼らない。血統に縛られない。教育で、次の世代を作る。
この二人は、その最初の成功例になる)
そして――
遠くない未来、
魔物国に「光属性の忌み子」が現れる。
その噂は、まだ小さい。
だが――盤面の重要イベントが、確実に近づいていた。
第三王子は、まだ表に出ない。
しかし、王国の基礎工事は、静かに始まっている。




