表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/66

風は、名簿にいない

 風は、名簿にいない──。


 探そうとした瞬間、アルトは気づいた。

 風は、どこにも載っていない。


 名簿が並ぶ。


 火属性の戦士名。

 地属性の工匠名。

 水属性の将校名。


 どれも分かりやすい。


 力があり、役割があり、評価基準がある。

 だが、風属性の欄だけが違った。


 肩書きが、ばらばらだ。


 法務補佐。

 記録官。

 交渉役。

 監察官。


 どれも、決定権を持たない立場。


「……これで、頂点がいるとは思えないな」

 アルトが呟く。


 レオンは、静かに頷いた。


「はい。風は、表に立つと嫌われます」


「嫌われる?」


「止めるからです」

 即答だった。


「前に進みたい者を止める。急ぎたい判断を遅らせる。

 正しいが、歓迎されません」


 アルトは、机に肘をついた。


 火は称賛される。

 地は信頼される。

 水は感謝される。


 だが風は――


「……恨まれるか」


「はい」

 レオンは淡々と続ける。


「成功したときは、“何も起きなかった”で終わります。

 失敗したときだけ、名前が出る」


 重い。


 風は、成果が見えない。

 だが、失敗だけは可視化される。


「だから」


 レオンは一呼吸置いた。


「優秀な風ほど、組織の奥に沈みます」

 その言葉に、ルシエルがわずかに顔を上げた。


「……光と、似ていますね」


 アルトは、何も言わなかった。

 否定できなかったからだ。

 資料をめくる。


 風属性の貴族家は、確かに存在する。

 だが、表に出ない。名を売らない。成果を語らない。


 “評価されないこと”が、評価基準になっている。


「……なるほど」

 アルトは、低く息を吐いた。


「だから、今まで誰も引き抜けなかった」


「ええ」

 レオンは言う。


「引き抜くには、“価値がある”と示す必要があります。

 しかし風は、価値を示した瞬間に機能しなくなる」


 沈黙。


 それは、火や水のときには存在しなかった種類の壁だった。


「……面倒だな」

 アルトが言う。

 だが、その口元は僅かに上がっていた。


「やりがいがある、とも言えます」

 レオンが応じる。


 アルトは立ち上がった。


「名簿は、もういい。探す場所が、違う」


 ルシエルが、静かに問う。


「……どこへ?」


 アルトは、窓の外を見た。


 城の上層。誰も見上げない場所。


「誰かが止めた記録が、一番多い場所だ」

 レオンは、一瞬だけ目を見開き、すぐに理解した。


「……監察、裁定、過去の却下案件」


「そうだ」

 アルトは言う。


「前に進めなかった理由を、全部拾う」


 それは、称賛の記録ではない。失敗でもない。

 “起こらなかった事件”の山。


 ルシエルは、胸の奥がざわつくのを感じていた。

 光は、見えるものを照らす。


 だが――

 風は、起きなかったものを存在させる。


 アルト・ノクティスは、ようやく確信していた。


 これまで集めてきたのは、動かす力。

 だが、次に探すのは違う。

 嫌われる覚悟を、最初から背負っている者。


 風は、名簿にいない。


 だが、確実にどこかでこの国を止めてきた。



 物語は、静かに次の段階へ入る。

 止める者を、探す段階へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ