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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

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21/65

枠のない流れ

 夜が浅くなった。


 魔王城の闇は、本来もっと重い。

 だが第三王子の周囲では、灯りが消えず、人の気配が途切れない。


 仕事が終わり続けている。それ自体が異常だった。

━━━━━━━━━━━━

 【資料室】

 地図の上には、いつの間にか線が増えている。


 アルト・ノクティスは、国境ではなく配置を見ていた。

 誰を動かせば、どこが軽くなるか。

 どこに人を置けば、問題が先送りになるか。


 盤面は、よく回っている。


「……順調ですね」

 背後から、ルシエルがそう言った。


 アルトは答えず、指を止めた。

 その一言で十分だった。


 扉が開く。


「失礼します」


 レオンが書類を置いた。


「補給の遅れは解消しました。余剰も出せます」


「余剰?」


「配置を変えただけです。効率が上がりました」


 成功だ。だがアルトは、その紙をすぐには見なかった。


「レオン」


「はい」


「今の仕組みで、誰が責任を負う?」

 レオンは一瞬、考えた。


「……規則上は担当部署です。ただし今回のように部署を跨いだ場合、責任は分散します」


「つまり?」


「何か起きれば、立場の弱い者が処理されます」

 アルトは小さく息を吐いた。


「責任を一箇所に集めるには?」


「線を引く必要があります。判断の線、裁量の線。

 そして、その線を引く人間です」


 線。枠。


 背後で床が鳴った。


「オデ、呼ばれたか?」

 グランだった。


「地盤の点検は?」


「終わった。崩れそうなところは抑えた」


 盤面は、さらに安定する。

 だが――


「グラン」


「なんだ」


「流れを止めることはできるか」


「できる。だが……溜まる」


 短い答えだった。

 だが、それ以上の説明はいらなかった。


 アルトは、地図を見下ろす。


 火は動かす。

 地は支える。

 水は流れを制御する。


 だが、留める仕組みがない。


「……まだだな」

 自然に、言葉が出た。

 誰に向けた言葉でもない。


「これは国じゃない」

 盤面としては完成に近い。

 だが、続かない。


 続かせるための枠がない。

 レオンが、静かに頷く。


「ええ。動かすことはできますが、固定できません」


 アルトは地図を畳んだ。


「このまま進めば、必ず歪む。

 そして歪みは、いつも一番弱い場所に出る」


 誰も反論しなかった。

 反論できないからだ。


「次にやることは?」

 レオンが問う。


 アルトは、暗い廊下の先を見る。


「枠を作れる人間を探す」


 具体名はない。

 だが条件は、はっきりしていた。


 夜は短い。流れは速い。


 そして――枠のない流れは、必ず誰かを沈める。


 アルト・ノクティスは、この成功を“未完成”だと認めた最初の夜に、次の一手を決めた。

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