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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

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20/66

名前を持たない不安

 最近、夜が短い。

 そう感じるようになったのは、ルシエルだけだった。


 人の出入りが増えた。

 第三王子の周囲を、静かに、だが確実に。


 誰も騒がない。誰も誓わない。


 それでも――

 流れは、加速している。


 グランは、地図を書き換えている。

 拠点が増え、道が整い、地形が“使われ始めた”。


 レオンは、帳簿を閉じる時間が目に見えて短くなった。

「……このままいけば、三日で回りますね」


 それが、良い意味なのかどうか。


 ルシエルには、判断がつかない。


 セフィラは、兵の配置を一度見ただけで、修正を終える。

 前線が安定し、後方が軽くなる。


 戦争が、遠のいているはずだった。


(……なのに)


 ルシエルの胸は、重かった。

━━━━━━━━━━

 夜。


 資料室の片隅。

 アルトは地図を見ている。

 いつもと同じ姿。


「……順調ですね」

 ルシエルは、そう言った。


 声は、自分でも驚くほど乾いていた。


「そうか?」

 アルトは、視線を地図から離さない。


「人が増えました。

 動きも、速くなっています」


「なら、いいことだろう」

 即答。


 ルシエルは、言葉に詰まった。

 間違っていない。正しい。


 ()()()()()


「……止まる場所が、ありません」

 ぽつりと、零れた。


 アルトの指が、止まる。


「流れは、止めない方がいい」

 そう言うと思っていた。


 だが──


「……どこが、引っかかる」

 アルトは、珍しく聞き返した。


 ルシエルは、目を伏せる。

 言葉が、見つからない。


「……分かりません。

 でも、このままだと…」


 胸に浮かぶ感覚。

 光が、広がりすぎる感覚。

 境界が、溶けていく感覚。


「……誰かが、悪者になる気がします」

 空気が、わずかに張り詰めた。


「誰が?」


「……分かりません。だから、怖いんです」


 アルトは、地図を見つめたまま黙り込む。

 否定しない。


 だが、肯定もしない。


 その沈黙が、ルシエルには答えのように思えた。

(……止める人が、いない)


 地は、形を作る。

 火は、燃え方を変える。

 水は、流れを制御する。


(でも)


 ()()()()


 ルシエルは、自分が光であることを初めて恨んだ。

 照らせば、見えてしまう。


 だが、線は引けない。


「……アルト様」


 呼び方が、少しだけ変わる。


「私…これを、“国”と呼ぶには…」

 言葉が、続かなかった。


 アルトは、静かに息を吐く。


「……まだだな」


 その一言で、胸の奥が冷えた。

 同時に、少しだけ楽になる。


「足りない」

 アルトは、はっきり言った。


「分かっている」

 それだけだった。


 解決策は、まだない。


 だが。


 ルシエルは、確信した。

 このままでは、どこかで必ず歪む。


 夜が、また短くなる。

 流れは、止まらない。


 そして、風のない場所で、

 水は溜まり始める。


 誰も、それをまだ言葉にできないまま。

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