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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

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18/18

静水は、戦場を呑む

 第三王子アルト・ノクティスは、一人ではなかった。

 その半歩後ろ、常に影のように寄り添う少女ルシエル。

 光属性を宿す、魔族に生まれた忌み子。

━━━━━━━━━━

 水属性貴族家の門は、静かだった。


 警備は厚い。だが、威圧はない。

 侵入を拒むのではなく、混乱を避ける配置。


「……噂は、本当のようですね」


 門をくぐった瞬間、

 ルシエルが小さく呟いた。


「水が、荒れていません」


「荒れさせない家だ」

 アルトは答える。


「荒れたあとに、困るのはいつも民だからな」

━━━━━━━━━━

 水属性貴族家当主――

 リュミエラ・ヴァル=アクア。

 当主には珍しく女性である。


 柔らかな物腰。静かな声。

 だが、その腰には剣があり、

 姿勢には一切の隙がなかった。


「第三王子殿下」

 リュミエラは頭を下げる。


 その視線が、一瞬だけルシエルに向く。


 嫌悪はない。

 だが――無視もしない。

 それが、水の対応だった。


「……そして」


 言葉を選びながら続ける。


「光属性の……お連れの方」


「ルシエルだ」

 アルトが言う。


「同行している」


 リュミエラは、一拍置いて頷いた。


「承知しました」

 理由は、問われなかった。

━━━━━━━━━━

 案内された訓練場では、水属性の兵が動いていた。


 速くはない。派手でもない。

 だが、退路が常に確保され、負傷者が即座に下がり

 隊列が、崩れない


 削る戦場。


「……不思議ですね」

 ルシエルが言う。


「戦っているのに、怒りがありません」


「水は、感情で戦わない」

 リュミエラが答える。


「感情は、後処理を難しくしますから」


 アルトは、その言葉を聞いて確信した。


(……将軍だ)


「水属性は、調和を重んじると聞いていました」

 アルトが言う。


「はい」

 リュミエラは微笑む。


「ですが、調和とは?」


「血を流さずに済む形を最後まで探すことです」


「戦えるのですか?」


「必要とあらば」

 即答。


「私自身も、一兵卒として前に立ちます」


 ルシエルは、その声を聞いて思った。

(……この人、怖くない)


 それが、何より怖い。


「他に…いますか」

 アルトの問い。


 リュミエラは、少しだけ視線を伏せた。


「……一人います」


 案内されたのは、水路管理と作戦室が一体化した区画。


 地図。

 水量。

 兵站線。


 戦争を“管理”する部屋。


 そこにいたのは、若い女性。


 穏やかな表情。

 だが、視線は鋭い。


「名は?」


「……セフィラ」


「戦えるか?」


「はい。前でも、後ろでも」


 リュミエラが補足する。


「彼女は、水属性の中でも突出しています。

 魔力、戦闘、指揮、どれを取っても将軍級です」


「では、なぜここに?」


 セフィラは、静かに答えた。


「……やりすぎるからです」


「一度、敵軍の水源を断ちました。

 戦は、一日で終わりました」


 沈黙。


「ですが、民も巻き込みました」


 ルシエルが、小さく目を伏せる。


 光の忌み子として、同じ立場を想像してしまったからだ。


「勝てるが、使いどころを選ぶ刃です」

リュミエラは、淡々と言う。


 アルトは、迷わなかった。

「勝負は、いらない。一つだけ聞く。

 将軍として、何を目指す?」


 セフィラは、少し考えて答えた。


「……戦争を管理したい」


 ルシエルが、小さく息を呑む。


「終わらせるのではなく?」

 リュミエラが問う。


「はい。終わらせれば、また起きます。

 ですが、管理できれば、起こらなくなります」


 アルトは、即座に言った。


「来い」


 リュミエラは、しばらく沈黙し、やがて、微笑む。


「……連れて行きなさい

 ただし…」


 柔らかな声のまま、鋭く続ける。


「彼女は、兵器ではありません。

 人であり、将軍です」


「分かっています」

 アルトは答えた。

━━━━━━━━━━

 【廊下】


 セフィラが、ルシエルを見て言った。


「……光を連れているのに、怖くないのですね」


 ルシエルは、少し考えてから答える。


「……慣れているだけです」


 セフィラは、小さく笑った。


「水も、似たものです」


 こうして、水属性の将軍は、第三王子の側に立った。

 彼女が動かすのは、水でも、兵でもない。


 戦争が起きる“条件”そのものだった。

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