評価は、声にならない
戦が終わった翌日。
最初に変わったのは、命令でも、配置でもなかった。
視線だった。
【第一王子派・前線】
「……生き残ったな」
焚き火のそばで、兵士が呟いた。
「勝った、はずなんだが……」
装備を外しながら、別の兵が言う。
「正直に言うとさ。
第三王子殿下の側の部隊……楽だった」
「楽?」
「死ぬ気で 突っ込まなくていい。
退く場所が、最初から決まってた」
誰も、第一王子を悪く言わない。
だが――
比較は、止められなかった。
「命令が、分かりやすいんだ」
「やることだけ、やればいい」
「余計な気合は、いらない」
それは、第一王子派では口に出せない言葉だった。
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【第二王女派・執務区画】
書類の山。
官吏たちは、静かに仕事をしている。
だが、会話の端々に、変化があった。
「この案件…
第三王子殿下の周辺を通した方が、早いですね」
誰かが、小さく頷く。
「差し戻しが、来ない」
「基準が、明確だから」
評価は、感情ではない。
効率だ。
「派閥色が、ないんですよね」
「だから、責任の所在がぼやけない」
それは、第二王女派が誇ってきたはずの強みだった。
だが今は――
別の場所にあった。
離脱というほどのものではない
誰も、宣言しない。
「第三王子派に移ります」とは。
ただ、忙しいから、今の配置が合っているから、
一時的な応援だから、
そう言って、戻らなくなる。
第一王子派では、前線経験者が後方に残るようになり、
第二王女派では、有能な官吏ほど調整役として
第三王子周辺に回された。
理由は、どれも正当だ。
評価は、口にしない。
「第三王子殿下って……」
誰かが、言いかけて、止める。
代わりに、別の言葉が出る。
「……やりやすい」
それだけ。
だがその一言が、すべてだった。
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【ルシエル視点】
ルシエルは、それを遠くから見ていた。
近づいてくる人。目を逸らす人。
嫌悪も、警戒も、まだ消えない。
(……選ばれている)
第三王子が、ではない。
やり方が。
「……静かですね」
ぽつりと、言う。
「そうだな」
アルトは答える。
「人が動くときは、大抵こうだ。
声が大きくなるのは、後からだ」
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その夜。
第一王子派の名簿から、数名の名前が自然に消え、
第二王女派の予定表には、「調整中」という 空白が増えた。
どれも、小さな変化。
だが――
戻らない変化だった。
誰も旗を掲げていない。
だが現場では、すでに判断が下され始めていた。
第三王子は、まだ何も宣言していない。
それでも。
人は、勝手に集まり始めていた。




