燃え続けるとは、何か
夜。
火属性貴族の訓練場は、
昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
焦げた地面。崩れた標的。何度も焼き直された跡。
勝ち続けてきた証だ。
だが――
今夜、それは違って見えた。
ザルディオ・フレイムロードは、
ゆっくりと歩きながら地面を見下ろした。
(……ここに残っているのは、勝者の痕か)
それとも、
(燃え尽きた跡か)
思い返せば、火属性の戦士は皆、同じだった。
前に出て、燃え上がり、倒れる。
それを誇りだと教えてきた。
早く燃える者ほど、優秀だと。
(だが……)
今日、見た光景が、その前提を崩していた。
燃やさなかった火。
残した火。
退路を確保し、兵を生かした火。
――それでも、勝っていた。
脳裏に、痩せた青年の声がよみがえる。
「燃やす量を間違えると、己も焼かれることになる」
(火が、自分を焼く……?)
そんな発想を、これまで一度でも教えただろうか。
そして、光を宿した少女の言葉。
「あたたかい火は、近づいても死なない」
ザルディオは、無意識に拳を握っていた。
(近づいても……死なない火)
それは、戦場では不要だと切り捨ててきたもの。
だが――
(守る場では、一番必要な火ではないか)
第三王子、アルト・ノクティス。
彼は、火を否定しなかった。
戦士を侮りもしなかった。
ただ、別の使い方を示しただけだ。
(あれは……破壊者ではない)
(価値を、組み替える者だ)
ザルディオは、空を見上げた。
炎の属性を持ちながら、
炎を振りかざさない王子。
人を集め、役割を与え、何かを始めようとしている存在。
(……火も、前に出るだけでは足りなくなるのか)
答えは、出ない。
だが、胸の奥で小さく灯るものがあった。
それは、これまでのように
一瞬で燃え尽きる火ではない。
消えずに残る、違和感という火。
(……まだ、認めるわけではない)
ザルディオは、そう自分に言い聞かせる。
だが同時に、確かに理解していた。
今日、自分の中の何かが
初めて燃え残ったことを。




