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千年王国計画 〜第三王子による長期国家運営録〜  作者:
人材確保編

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10/17

燃え尽きない火

 火属性貴族家当主――

 ザルディオ・フレイムロード。


 その名は、魔物国において、「最前線」を意味していた。


 火属性貴族家は、常に戦争の先頭に立つ家系だ。

 速さ。

 爆発力。

 圧倒的な肉体。


 火は、燃えてこそ価値がある。

 それが、この家の揺るがぬ信条だった。

━━━━━━━━━━━━━━

 訓練場は、戦場そのものだった。


 怒号。

 爆炎。

 焼け焦げた地面。


 一人一殺。一撃必倒。


「どうだ、第三王子」

 ザルディオが豪快に笑う。


「これが火だ。迷わず前に出て、一気に燃やし尽くす」


 アルト・ノクティスは、

 その隣に立つ少女にちらりと視線を送った。


 光属性を宿す、魔族の忌み子。

 彼女は、ただ静かに炎を見ていた。


「……火を、使い捨てている」

 アルトの言葉に、ザルディオの笑みが消える。


「何だと?」


 代わりに、ルシエルが小さく口を開いた。


「……きれいですね」

 場違いな言葉。


「でも……すぐ、消えます」


 ザルディオは鼻で笑った。

「火とは、そういうものだ。燃えて、終わる」


「終わるから、守れないんですか?」

 ルシエルの問いは、責めるでもないただの疑問だった。


 ザルディオは、即答できなかった。


 少し間を置いて、アルトが改めて尋ねる。


「今見せてもらったのは、この家が“誇り”として育ててきた者たちですね。

 では、その役目から外れた者は、今どこにいますか?」


 ザルディオは、視線を逸らした。


「……一人いる。だが、 火属性としては使えん。戦えんのだ。

 だから、ここには出していない」


 案内されたのは、訓練場の裏手にある小部屋だった。

 部屋に入ると、そこには地図と書類に囲まれた、痩せた青年が机に向かっている。


「名は?」


「……レオンです」


 火属性とは思えないほど、細い腕。だが、目だけは鋭かった。


「戦えるか?」

 アルトの問いに、レオンは首を振る。


「……無理です。三合も持ちません」


 ザルディオが吐き捨てる。


「火属性が、殴れんとはな」


 そのとき、ルシエルがレオンを見て言った。


「……後ろを見る人がいないと、前の人は、帰れなくなります」

 誰も、すぐには否定できなかった。


「勝負をしよう」

 アルトが言った。


「戦闘ではないがな」

━━━━━━━━━━━━━━

【模擬戦】


 同じ部隊、同じ戦場想定。

 一方は、従来の火属性戦術。

 一方は、レオンの指揮。


 精鋭部隊は、一気に突撃した。


 爆炎。制圧。


 だが、五分後。

 補給切れ、退路遮断。


 一方、レオンの部隊。

 火力は抑えた。


 燃やす場所を選び、敵の“動き”だけを焼く。

 退路は常に確保され、兵は減らない。


 勝ったのは、燃え残った火だった。


「……なぜだ」

 ザルディオが唸る。


 レオンは、地図から目を離さず答えた。


「火は、燃やす量を間違えると、己も焼かれることになる。

 彼は、火を“瞬間”ではなく時間で使っている」


 模擬戦が終わったあとも、

 レオンは地図の前に立っていた。


「一つ、確認していいですか」


 視線は、アルトに向けられている。


「あなたは、僕を“火属性の戦力”として見ていませんね」


「前に出る火ではない」


 アルトは、はっきり答える。


「燃やす量を計算する火だ」


 レオンは、静かに頷いた。


「やはり…この家の評価軸では、僕は不要な存在です。

 能力不足ではなく、役割不一致です。

 付いていくには、条件があります。


 第一に、肉体的戦力として期待されないこと。

 第二に、判断材料が常に与えられること。

 第三に、短期的な戦果で、評価されないこと」


「すべて受け入れる」

 アルトは即答した。


 レオンは、深く息を吐く。


「……なら、論理的には、あなたについて行くのが一番合理的です」


 アルトは、手を差し出した。


「来るか」


 レオンは一度だけルシエルを見て、その手を握った。


「……参加します。

 燃え尽きない火が、必要とされるなら」

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