燃え尽きない火
火属性貴族家当主――
ザルディオ・フレイムロード。
その名は、魔物国において、「最前線」を意味していた。
火属性貴族家は、常に戦争の先頭に立つ家系だ。
速さ。
爆発力。
圧倒的な肉体。
火は、燃えてこそ価値がある。
それが、この家の揺るがぬ信条だった。
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訓練場は、戦場そのものだった。
怒号。
爆炎。
焼け焦げた地面。
一人一殺。一撃必倒。
「どうだ、第三王子」
ザルディオが豪快に笑う。
「これが火だ。迷わず前に出て、一気に燃やし尽くす」
アルト・ノクティスは、
その隣に立つ少女にちらりと視線を送った。
光属性を宿す、魔族の忌み子。
彼女は、ただ静かに炎を見ていた。
「……火を、使い捨てている」
アルトの言葉に、ザルディオの笑みが消える。
「何だと?」
代わりに、ルシエルが小さく口を開いた。
「……きれいですね」
場違いな言葉。
「でも……すぐ、消えます」
ザルディオは鼻で笑った。
「火とは、そういうものだ。燃えて、終わる」
「終わるから、守れないんですか?」
ルシエルの問いは、責めるでもないただの疑問だった。
ザルディオは、即答できなかった。
少し間を置いて、アルトが改めて尋ねる。
「今見せてもらったのは、この家が“誇り”として育ててきた者たちですね。
では、その役目から外れた者は、今どこにいますか?」
ザルディオは、視線を逸らした。
「……一人いる。だが、 火属性としては使えん。戦えんのだ。
だから、ここには出していない」
案内されたのは、訓練場の裏手にある小部屋だった。
部屋に入ると、そこには地図と書類に囲まれた、痩せた青年が机に向かっている。
「名は?」
「……レオンです」
火属性とは思えないほど、細い腕。だが、目だけは鋭かった。
「戦えるか?」
アルトの問いに、レオンは首を振る。
「……無理です。三合も持ちません」
ザルディオが吐き捨てる。
「火属性が、殴れんとはな」
そのとき、ルシエルがレオンを見て言った。
「……後ろを見る人がいないと、前の人は、帰れなくなります」
誰も、すぐには否定できなかった。
「勝負をしよう」
アルトが言った。
「戦闘ではないがな」
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【模擬戦】
同じ部隊、同じ戦場想定。
一方は、従来の火属性戦術。
一方は、レオンの指揮。
精鋭部隊は、一気に突撃した。
爆炎。制圧。
だが、五分後。
補給切れ、退路遮断。
一方、レオンの部隊。
火力は抑えた。
燃やす場所を選び、敵の“動き”だけを焼く。
退路は常に確保され、兵は減らない。
勝ったのは、燃え残った火だった。
「……なぜだ」
ザルディオが唸る。
レオンは、地図から目を離さず答えた。
「火は、燃やす量を間違えると、己も焼かれることになる。
彼は、火を“瞬間”ではなく時間で使っている」
模擬戦が終わったあとも、
レオンは地図の前に立っていた。
「一つ、確認していいですか」
視線は、アルトに向けられている。
「あなたは、僕を“火属性の戦力”として見ていませんね」
「前に出る火ではない」
アルトは、はっきり答える。
「燃やす量を計算する火だ」
レオンは、静かに頷いた。
「やはり…この家の評価軸では、僕は不要な存在です。
能力不足ではなく、役割不一致です。
付いていくには、条件があります。
第一に、肉体的戦力として期待されないこと。
第二に、判断材料が常に与えられること。
第三に、短期的な戦果で、評価されないこと」
「すべて受け入れる」
アルトは即答した。
レオンは、深く息を吐く。
「……なら、論理的には、あなたについて行くのが一番合理的です」
アルトは、手を差し出した。
「来るか」
レオンは一度だけルシエルを見て、その手を握った。
「……参加します。
燃え尽きない火が、必要とされるなら」




