引きこもりゲーマー、魔王の第三王子に転生する
人生は、取り返しのつかない選択の連続だ。
だから俺は、現実を早々に見限った。
学校、就職、人間関係――
どれも攻略難易度が高すぎる。
攻略本もない、生まれは運ゲー、つまりクソゲーだ。
その代わり、俺が生きていたのは戦略ゲームの世界だった。
特に得意だったのは『信〇の野望』のような、
国を作り、民を管理し、戦争と外交を同時に回すやつ。
「この国、五十年後に内乱で滅ぶな」
画面を見ながら、そんなことを平然と呟ける程度には、
俺は“国家の失敗パターン”を知り尽くしていた。
――そして、そんな俺は死んだ。
日頃の不摂生か、それとも俺の体も頭と同様に現実を見限ったのか
理由は分からない。
気づいたら、次の画面に移行していただけだ。
━━━━━━━━━━
目を覚ましたとき、俺は赤ん坊だった。
泣こうとしても声が出ない。
身体は小さく、視界はぼやけている。
だが耳は聞こえた。
「生まれたか。我が子よ」
その声を聞いた瞬間、ゲーム脳の俺は理解した。
この世界の空気。この圧倒的な存在感。
微かに見える視界からは、人間の体から翼が生えていた。
(……魔王、か)
俺は、魔物国を統べる魔王の息子として転生していた。
「良い魔力の流れだ。
間違いなく、我が血を引く者
名はそうだな…アルトとしよう」
そう言って、俺を高く掲げる。
周囲の魔将たちが、跪く。
(スタート地点は……かなり恵まれてるな)
引きこもりゲーマーとしては、
珍しく当たりの初期配置だった。
少しずつ意識が明瞭になっていくいき、
周りの声を聴いている中で分かったことがある
人間国と魔物国が存在し、
千年以上、戦争を続けているらしい。
人間は光属性。魔物は闇属性。
生まれた瞬間に陣営が決まり、敵味方が固定される。
(なんて楽しい世界なんだ。)
━━━━━━━━━━
数か月後、俺は自分の立場が第三王子と知ることになった。
俺の上には二人の兄姉がいる。
第一王子は、力こそすべてと信じる野蛮な武闘派。
第二王女は、王座にしか興味のない冷酷な合理主義者。
(ああ……どっちも国を滅ぼすタイプだ)
ゲーム脳が即座に警鐘を鳴らす。
前者は短期的勝利で自滅。
後者は民を削りすぎて反乱。
どちらが魔王になっても、この国は長くはもたない。
だが――
(第三王子、か)
俺は内心でほくそ笑んだ。
ギリギリ継承権はある。だが最前線ではない。
失敗しても即死しない。成功すれば、一気に流れを変えられる。
(最高のポジションだ)
この数か月で、もう一つ気づいたことがある。
それはこの世界にある、もう一つの歪みだ。
人間国に闇属性で生まれる者。
魔物国に光属性で生まれる者。
それらは忌み子と呼ばれ、両国で等しく忌諱されている。
光と闇は、紙一重。
だが世界は、その一重を越えることを許さない。
(……詰んでるな、この世界)
戦争は止まらない。
勝っても、負けても、次が来る。
千年続いた対立は、もはや「前提条件」になっている。
だから俺は、決めた。
魔王になることが、目標じゃない。
人間でも、魔物でもない国、光と闇が共存する国。
人間国と魔物国の中間地帯に建国し、
両国に独立を宣言する。
当然、両者ともに敵に回るだろう。
反感も、侵攻も、裏切りも来る。
――だが、守り切る。
制度で
外交で
戦略で
信念で
「千年続く王国を、建国する」
それが、俺の勝利条件だ。
やがてその王国は、人間国と魔物国を――飲み込む。
滅ぼすのではなく、飲み込む。
属した方が得だと、そう思わせる国にする。
小さな身体で、俺は静かに誓った。
引きこもりゲーマーだった俺の人生は、
ここからが本番だ。
この世界そのものを、長期シナリオで攻略する。
千年王国の建国は、まだ遠い未来の話。
だが――
最初の一手は、すでに打った。




