第7話 大団円
大物登場で終幕のはずが、想像もしない結末に。
会議室の扉がスゥ……と開き、現れたのはグレーのスーツに身を包み、
大量の「検定済み」スタンプをぶら下げた女性
「教科書出版社」さんでした。
「な、なんだお前は!」
「本能寺の変」君が凄みますが、彼女は眉一つ動かさず、
手元のタブレットをタップします。
「出版社です。来年度の『新・学習指導要領』の校正に来ました。
皆さんの言い分は廊下で聞いていましたが…
…ハッキリ言って、全部『ボツ』です。ページ数が足りません」
「「「ボツ!?」」」 会場に戦慄が走ります。
「まず『聖徳太子』さん。
最近は教科書での表記を『厩戸王』に切り替える動きがあります。
二つ名はややこしいので、索引の隅っこに移動してください。
ベスト3なんて論外です」
「えっ、私のブランド価値が……」 崩れ落ちる聖徳太子さん。
「次に『鎌倉幕府成立』君。あなた、結局何年生まれなんですか?
1185年だの1192年だの、諸説あるのは受験生が混乱します。
いっそ『なし崩し的に始まった』という記述にして、重要度をBランクに下げます」
「そんな! 僕のアイデンティティが『なし崩し』に……!」
「さらにマイナー勢の皆さん。『お椀のストライキ』? 『滝の水』?
――面白いですが、入試に出ません。削除。
『猫に位』? 『象の散歩?』
動物愛護団体への配慮が必要なので検討中ですが、基本はカットです」
冷酷な「仕分け」に、歴史のスターたちは震え上がります。
「おい、待てよ!」 「太平洋戦争」君が、軍服の襟を正して詰め寄りました。
「俺を削るわけにはいかないだろう。俺がいないと、戦後の記述に繋がらないぜ?」
「ああ、『太平洋戦争』君。あなたは残りますよ。ただ、最近は近隣諸国との配慮や
記述のバランス調整が大変で……。
あなたのページ、注釈(※)だらけで文字がギチギチになっちゃうんですけど、
いいですか?」
「……それはそれで、読み飛ばされそうで辛いな」
「結局」と、「教科書出版社」さんは赤ペンを耳にかけ、無慈悲に告げました。
「ベスト3は、学習効果と試験対策を考慮して、事務的にこちらで決めました。
1位:『墾田永年私財法』(土地所有の基本だから)
2位:『寛政の改革』(テストに出しやすいから)
3位:『日米修好通商条約』(名前が長くて点差がつくから)
以上です。解散!」
「日本史を睡眠導入剤にするつもりか! 受験生が速攻で寝落ちするぞ!!」
「墾田永年私財法で大河ドラマ1年持たせてみろよ! 」
歴史の主役たちは、あまりにも「大人の事情」すぎる裁定に号泣。
結局、1位の座を奪われた出来事たちは、仲良く連れ立って
居酒屋「縄文」へと向かいました。
「……まあ、いいじゃないか。教科書から消えても、俺たちのドラマは消えないぜ」
「本能寺の変」君が、「鎌倉幕府」君の肩を抱きます。
「そうですね……。でも、あの出版社の人、最後に見せた『白紙の1ページ』は
何だったんでしょう?」
その頃、誰もいなくなった会議室で、司会の*日本史」君がその白紙を眺めて
いました。
そこには小さな文字で、こう記されていました。
【次回の歴史:20XX年、人類が猫語を完全解読し、世界が平和になる】
「……結局、未来には勝てないってことか」 日本史君は静かに明かりを消し、
日本の歴史(という名の会議)を、そっと閉じるのでした。
(完)
結局、暫定では、 「1位:太平洋戦争」 「2位:滝の水(癒やし)」 「3位:象」 「特別賞:承久の乱(名前だけは強そう賞)」で終わってたみたい・・・




