第3話 アイデンティティの崩壊
有力者が出そろったかと思いきや、どうしてどうして名乗りはまだ続き、教科書の「大物」が名乗り出る。
「……ちょっと、待ってくださいよ。僕を抜きにベスト3なんて決めさせません」
眼鏡をクイッと上げ、何十冊もの最新の研究書を抱えた青年が、
フラフラと壇上に上がってきました。
「鎌倉幕府成立」君です。
「おっ、教科書の顔が来たな!」 「明治維新」さんが声をかけますが、
「鎌倉幕府成立」君の表情はどこか暗い。
「聞いてくださいよ……。
僕、昔は『いい国(1192年)作ろう』ってみんなにチヤホヤされて、
2位か3位は確実なスターだったんです。
それなのに最近の研究じゃ、『実は1185年(いい箱)だったんじゃね?』とか言われて、
自分の誕生日すらわからなくなっちゃったんですよ……!」
「誕生日くらいで、ガタガタ言うな!」
「本能寺の変」君が野次を飛ばしますが、
「鎌倉幕府成立」君は止まりません。
「それだけじゃないんです!
『そもそも、いつ成立したかは段階的すぎて一概には言えない』なんて
言われ始めて、最近じゃ『実体のない概念』扱いですよ。
僕は今、自分が何者なのか、いつ生まれたのかもわからない…
…存在がゲシュタルト崩壊してるんです!」
「鎌倉幕府成立」君は、抱えていた研究書を床にブチまけました。
「だから! この会議でベスト3に入ることで、僕のアイデンティティを再定義
したいんです!
『いい国』でも『いい箱』でもいい、僕を……僕を歴史に刻み直してください!」
完全なるカオスへ
会場はさらにヒートアップしていく。
「本能寺の変」君:「信長ファンからのリプ返が止まらねえ! 炎上商法なら俺の勝ちだ!」
「仏教伝来」君:「私の法力で、皆さんのタイムラインを浄化して差し上げましょう(物理攻撃)」
「桶狭間」君:「雨よ降れ! 奇襲の準備だ!」(会議室の火災報知器が作動)
「弥生時代」翁:「ほーれ、新米の炊き出しじゃ。とりあえず落ち着いて米を食え」
「もう、めちゃくちゃだよ……」 司会の「日本史」君は頭を抱えた。
「1位は『太平洋戦争』君で確定として、2位と3位はもう…
…『次の大河ドラマの主役』に決めてもらうしかないのか!?」
その言葉を聞いた瞬間、それまで争っていた全員がピタリと動きを止め、
鏡を見て身だしなみを整え始めた。
「よし、俺だな」「いや、私の時代です」「わしの米農家ライフを映像化せんか?」
日本史の会議は、もはや「誰が一番目立てるか」のオーディション会場へと
変貌したのである。
(第4話に続く)
カオス度がますます増してきたところで、今度は脚注たちも立ち上がる。次回ご期待。




