TS、ボクっ子と勝負する 2
神谷は10本目のシュートを放った。それは、リングに嫌われ、入らなかった。しかし、10本中、8本も沈めてきた。コイツ、口だけじゃなく、実力もあるな。
最後のシュートを終え、神谷はスリーポイントラインから引いた。
「ナイストライ」
「それはどうも。しかし、10本中8本しか入らなかったか」
「ロングシュート成功率8割なら十分だろ」
「いや、練習でそれじゃあ駄目なんだ。練習なら、9本、10本と成功させなきゃ」
「まぁ、そうかもしれんが。しかし⋯⋯」
言いかけ、そこでやめた。
そこで、河合がコートの外から手招きをしているのが、目に入った。オレは「ちょっと失礼」と、神谷に声をかけ、河合がいる所に向かった。
「あのね、拓巳くん。今、加藤からラインきてさ。保健室に相沢がいるんだけど、これから整形外科に行くみたいなの。捻挫していると悪いから医者に行きなさいって、保険の先生から言われて。だから、私、これからタクシーを呼ぼうかと思って」
「そうなのか⋯⋯なら、河合は相沢さんに付き添ってあげてよ」
「ゴメン、そうするね。それじゃあ、拓巳くん、頑張ってね」
オレは胸を叩いた。河合は、体育館を出ようとしたが、何かを思い出したらしく、振り返った。
「あ、相沢からの言付けを言い忘れてた。『巧己君が、バスケ部の助っ人になってくれたら、すごく助かります。これって、ボランティア部に依頼出来ないかな?』だって」
「そ、そうか。勿論、その依頼受けるよ。これってボランティア部の初めての依頼になるな!」
「うん、そうだね!」
河合は、笑顔になった。つられて、オレも笑顔になる。その後、彼女は体育館から名残惜しそうにして出ていった。
そこから、オレは急いで教室に戻り、ジャージ着替えた。着替え終えると、私服をトートバッグに入れ、それを持って、駆け足で体育館まで戻った。
サイドラインを跨いで、歩いていく。今度は、オレがスリーポイントラインに立った。
息を吐いて、吸って。そんでシュート。パサリとバスケットが揺れた。よっし、一本目決めた。
続いて2投目、3投目。それも連続して決まる。
「きゃー、たくみくーん!」
「失敗しろ、拓巳!」
「きゃー、ましろ様―。マジ貴公子」
なんか声援は互角である。互いに女子に人気があるとか、なんとなくトホホである。
それからもリズムに乗りながら、シュートを放っていく。
最後の十投目となった。これでラスト。ここまで2つ外している。だが、これを入れれば8本成功で、神谷と同点になる。ここは、是が非でも入れたい。
荒くなった呼吸を整える。吐いて、吸って⋯⋯シュート!
ボールは放物線を描き、ガンとリングに当たってから白い網の中に。シュートを決め、神谷を見遣る。すると、彼女はこちらに近づいてきた。
「同点だな。神谷、延長線やるか?」
「いいや」
彼女は、首を振った。そして、右手を差し出してくる。
「ナイスシュート。どうやら、君は本物みたいだ。是非、練習に参加してくれないかな? 飛び入りとしてね」
「了解だ」
神谷が手を差し出してきたので、握手をした。なんか「ましろ様―」とか「拓巳くんー」とか、一部の女子が煩い。
バスケ部の練習に参加した。相沢さんからの依頼。それは、ボランティア部への初めての依頼でもあった。これは、気張ってやらなければいけないな。
ディフェンスに回った時は、体を張って神谷をブロックした。オフェンスに回ると、神谷が必死でブロックしてきた。お互いの汗が、コートに弾け飛ぶ。視線が合うと、互いにニヤリと笑った。
そこから1時間半ほど、ぶつかりあった。




