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TS、ボクっ子と勝負する 1

 体育館に、バスケットボールの弾む小気味の良い音が響く。


 オレの視線の先にいるのが、神谷ましろという名の女子。髪はショートで、やや吊り目の切れ長であり、鼻梁は高い。絵に描いたような美形であるが、凛々しく、どちらかと言えば宝塚系である。


 その神谷と何故かバスケのスリーポイントで、勝負する羽目になった。


 先にロングシュートを放った神谷のボールが、バスケットの中に吸い込まれた。コイツ、口だけじゃなく、デキる奴だ。


 オレは、舌打ちした。


 そして、なんでこんな目にあっているのか、僅か40分ばかり前の出来事だが、そこから振り返るべきであろう。


******


 放課後。教室で、オレはいつものグループと女子トークを繰り広げていていた。

 そのうち、相沢さんが席を立ったので、尋ねた。


「相沢さん、どうしたの?」

「いやー、このままダベっていたいんだけどね。そろそろ、部活に行かなくちゃ」

「ああ、相沢さんは、女バスだったのよね?」

「そうそう。私、シューティングガードしてるんだー」

「へーそれは凄いなぁ。そうだ、相沢さん、これから応援というか――見学に行ってもかまわないかな?」

「勿論だよー、拓巳くん。是非、来てほしいなー」


 そんな遣り取りがあり、オレ達は体育館へ向かった。ボランティア部の方は、1日くらいサボっても、大丈夫だろう。


 体育館に着き、相沢さんは更衣室にいった。少し待つと、彼女は着替えを済ませ、バスケ部のジャージを着て、颯爽と出てくる。オレと河合と加藤さんは、練習の邪魔にならないよう、体育館の端から見学している。


 基礎練習が終わり、相沢さんはセンターラインに戻った。前には、ディフェンダーが二人いる。彼女は、その二人をドリブルで躱し、軽やかに舞った。


 しかし、ジャンプシュートを成功させた後、彼女は顔を歪ませた。どうやら、足を捻ってしまったようだ。


「あ、相沢さん。大丈夫か?」


 オレは、部員でもないのに、コートの中に入った。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと捻っただけだから。ってイツっ!」


 立ち上がった相沢さんは、やはり顔をしかめた。オレは肩を貸し、彼女をコートの外まで連れて行った。


「相沢さん、保健室に行ったほうがいいよ」

「だね。けど、困ったな。8月に大会に向けて、今日は実践形式でやる予定だったんだ。私がいなくなったら、皆に迷惑かけちゃうよ。――って、そうだ!」


 相沢さんは、オレの顔を見て、口角を上げた。


「拓巳くん、悪いのだけれども、私の代わりに練習に参加してくれないかな? 拓巳くんってさ、バスケも上手かったよね?」

「ああ、うん。今日一日だけなら、構わないけど」

「ありがとう。これで保健室に行けるよ。湿布貼ってもらって、大したことなければ、また戻って来るから」

「う、うん。了解です」


 話がつくと、相沢さんは、加藤さんに支えてもらいながら、体育館から出ていった。


 オレは、降って湧いた話に戸惑いながらも、サイドラインを跨いで、コートの中に入ろうとした。


 その時、一人の女子が、オレの前に立ち塞がった。彼女は、凛々しい顔をしたショートカットのボーイッシュな女子であった。


「あのさ、部外者はコートに入らないでくれかな? ついでだから、体育館から出ていってもらえると、尚いいね」

「相沢さんが怪我したから、助っ人するつもりなのだが。余計なお世話だったか?」

「ああ、大きなお世話だね。TSして美少女になった塚原拓巳くん。君の噂は、よく耳にしているよ」

「なんかカチンとくる言い方だな。なおのこと、練習に参加したくなったわ」


 オレは、無理にコートに侵入した。そんな強引な態度が癪に障ったのか、ボーイッシュ女子は再び前に立つ。


「待て待て。どうしても練習に参加したいと言うのなら、スリーポイントで勝負しよう」

「いきなり勝負だと? なんなんだ、そりゃ」

「まずは君の実力を見せてもらわないとね。来月には大会があるんだ。足手まといだったら、かえって迷惑になるからね」

「成る程。相沢さんの助っ人になり得るかどうかのテストということか」

「そういうこと」

「⋯⋯分かった、いいだろう」


 相沢さんとの約束があるし、ボーイッシュな女子の申し出を受けることにした。しかし、いきなり勝負とか、こんなのありかよ!?


 そして、彼女が先にスリーポイントのラインに立った。


「じゃあ、ボクが先攻でいいかい? お互い10本シュートして、多く入ったほうが勝ちってことで」

「ああ、それで構わない」

「よし、じゃあいくよ」


 彼女は、コートに落ちていたボールを拾い上げ、シュートの構えに移ろうとした。


「ちょっと待った。一応、お前の名前を聞いておこうか」

「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。ボクは、2年B組の神谷ましろ。一応宜しくな、TS美少女の塚原拓巳くん」


 神谷はフッと笑ってから、いきなりジャンプして、シュートを放つ。それは、鮮やかに決まった。


「きゃー、ましろ様ー!」


 黄色い声援がした。なんか、一部の女子が熱狂的に叫んでいる。


 女子に人気があるボクっ子かよ。なら、オレっ子の意地にかけても、アイツに負けられねぇな。


*****




 こういった経緯があり、今に至る。我ながら、馬鹿な話だと思うが、もう勝負は始まっていた。

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